昨秋の生物多様性条約第十回締約国会議(COP10)で採択された名古屋議定書に、日本が署名した。COP10の成果を守るということは、多様ないのちの価値を守ること。本番は、これからだ。
名古屋議定書は、温暖化対策を定めた京都議定書に続く、日本の都市名を冠した国際環境ルールである。COP10では、生態系の保全目標である愛知ターゲットとともに採択された。
私たちは、動植物や微生物など、無数のいのちの恵みを受けて日々を生きている。食べ物はもとより、医薬品や化粧品などから挙がる利益は莫大(ばくだい)なものになる。利用価値が高い生き物を主に提供する途上国と、加工して利用する先進国の間に、その利益配分をめぐって、大きな不公平があった。名古屋議定書は、それを改めるための大まかなルールを定めており、COP10では土壇場で南北が歩み寄って採択された。
二月、議定書参加への意思を表す署名が、ニューヨークの国連本部で始まり、これまでにコロンビアなど主に提供国側の十三カ国が終えていた。十一日の署名式では、日本をはじめノルウェーやインドなど八カ国が加わった。
署名を終えると、各国は国会の批准・承認を得て、正式に参加を決める。批准した国や地域が五十に達した日から、九十日後に発効することになっている。
例えば議定書は、不正な輸出入の監視機関を一つ以上設置するよう定めているが、どのような仕組みにするかは、その国の国内法に任せている。今後は批准手続きとともに、充実した国内法の整備が急がれる。
名古屋議定書が訴えるのは、公正な“もの”の取引だけではない。私たちの暮らしに恵みをもたらす多様ないのちと、そのつながりである生態系を守り、将来に残していくことが、その大前提だ。
福島第一原発の警戒区域で餓死した牛の映像を見て、心を痛めた人は少なくない。多くのいのちが危険にさらされている時だからこそ、多様ないのちと、その恵みについて、国民全体がより一層、理解と認識を深めるべきだ。
海も、田んぼも、生物多様性の重要なステージだ。海や田んぼの生きものたちに、より多くの人々が関心を持つことは、被災地の屋台骨である水産や農業再興への追い風にもなるはずだ。COP10の成果を忘れてはならない。今こそ、それを生かしたい。
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