菅直人首相にとっては、不本意だったのではないか。中部電力に浜岡原発の全面停止を要請したことを受けた各紙の世論調査の結果は、停止を評価する声が六割を超えているのに、内閣支持率は微増にとどまった▼停止要請は評価しても、この問題を政権浮揚に利用したいという腹の中が見通されているからだろう。「退陣すべし」の声が減ったことが、せめてもの救いかもしれない▼共同通信の調査では、今後、原発を「減らすべきだ」47%、「直ちに廃止」6%で計53%。「現状維持」は38・5%だった。削減・廃止派は、三月よりも6・3ポイントも増えた。この差はもっと拡大するのではないか▼福島第一原発の事故は、二カ月たっても好転の兆しは見えず、深刻な事実が次々と明らかになっているからだ。燃料の一部は溶融したが、全炉心溶融(メルトダウン)はしていないと言ってきた東京電力も、1号機で震災発生から間もなく、メルトダウンが起きたことを認めざるを得なくなった▼格納容器を水で満たして冷やす「水棺」も断念するという。前提が次々と崩れ去っているのに政府や東電が約一カ月前に公表した工程表に大きな変更はないと言い張るのは不可解でならない▼情報が隠されているのでなければ、二カ月を経て見えてきたのは、原発事故の状況を、だれも把握できていないという寒々しい事実である。