港町のシンボルである大漁旗が、丘の上にはためいていた。森進一さんの名曲『港町ブルース』にもその名を歌われた宮城県気仙沼市で、東日本大震災から二カ月となる十一日、市民主催の追悼式があった▼漁師から届けられた彩り豊かな大漁旗二十四枚が飾られている。瓦礫(がれき)の中から見つかり、きれいに泥を洗い流した旗も二枚。「祝大漁」の「祝」の上に張りつけた「祈」の文字に、港町の復活にかける思いを感じた▼漁業再生の障害は瓦礫だ。宮城県沿岸には、約千五百万〜千八百万トンもあると推計され、処理が終わるまで三年と見込まれている。海中では、同時に遺体を引き揚げることもあり、作業は慎重にならざるを得ないという▼宮城県の村井嘉浩知事は、水産業の再生に民間資本を生かす特区構想を発表した。養殖の漁業権を民間にも開放するという構想に漁協は強く反発し、撤回を求めた。不協和音の広がりが心配だ▼桜前線が駆け抜けた東北地方はいま、山吹や菜の花が盛りだ。つつましい黄色の花はどこか気持ちをなごませてくれる。一カ月前とほとんど光景が変わっていない気仙沼市の瓦礫の間を歩いていると、泥の中でタンポポの花が咲いていた▼復興の主役は行政や政治家ではない。しっかりと根を張り、大津波にも流されなかったタンポポのように、その土地で強靱(きょうじん)に生き抜いていく人たちだ。