昨夏は暑かった。だから「この夏も暑くなりそうだ」という気象庁の予報に驚きはない。だが、今度ほど、その見立てが切迫した響きを持つ夏もない▼大震災による福島第一原発事故に起因して、広く国内で電力不足が生じる恐れがあるからだ。東電管内に加え、首相の要請を受けた浜岡原発停止で中電管内でも需給逼迫(ひっぱく)は必至。他社管内でも点検中の原発を再稼働できないなどの事情から同様の事態も考えられる▼つまり、ほとんど国民すべてが生活の中での思い切った節電を求められるということだ。ある意味、「脱原発」という選択肢にとっての試金石になる夏だともいえる▼少し気になるのは心理学でいう「傍観者効果」。道に人が倒れているといったケースでは、居合わせる人が多いほど救助行動が抑制される傾向があるとか。「自分がやらなくても誰かがやるだろう」といった心理が働くためらしい。節電では、これは避けたい▼ただ、ある自治体の環境担当者が言ったように「汗だくになってがまんする節電では長続きしない」のも確かだろう。されば、マラソンや登山の愛好者はヒントにならないか▼車やロープウエーを使えば、苦もなくゴールや頂上に着けるが、あえて「便利」でなく「不便」に意味や喜びを見いだす。もし、私たちの暮らしにそんな価値観が芽吹くなら、社会が変わる契機にもなろう。