福島第一原発から半径二十キロ以内の「警戒区域」に住んでいた人々の一時帰宅が始まった。放射能の汚染度は地域によって差異がある。実態に合わせ、複数回の帰宅を認めるなどの柔軟さも必要だ。
「通帳を持って来たい」「住所録を書き写して来る」「持病の薬を持って帰りたい」…。福島県川内村の五十四世帯・計九十二人が第一陣として、一時帰宅した。一世帯一人が原則だが、結果的に二人で帰宅する世帯が多かった。
「警戒区域」は災害対策基本法などに基づき、区域内への立ち入りを強制的に禁じている。不自由な避難生活を強いられているだけに、「とにかく家に帰りたい」という要望がかなえられた住民にとっては、取りあえず、ほっとした思いだろう。
この区域には九市町村の約二万七千世帯が含まれる。原発から半径三キロ以内は一時帰宅が認められないが、同県葛尾村で十二日から、田村市で十三日以降と、順次実施される見通しだ。
防護服に身を包み、線量計やトランシーバーなどを持っての行動だ。原発からは放射性物質が放出されている状態だけに、帰宅する住民には危険性についての十分な説明と注意喚起、安全第一を徹底してもらいたい。
ただし、滞在時間は約二時間と制約され、持ち帰れるのは縦横約七十センチのポリ袋に入る分だけだ。もっと対応が柔軟であってもよいのではないか。放射能の拡散も同心円状では進んでいない。放射線量が少ない地域では、一回だけでなく、定期的に複数回の帰宅を認めたらどうだろう。
逆に今後、避難を余儀なくされる地域もある。「計画的避難区域」に指定された同県飯舘村では、今週末にも一部住民の避難が始まる。原発から北西に約四十キロも離れているが、放射線量が多いのだ。文部科学省の調査では、採取した土壌から、高濃度の放射性ヨウ素やセシウムが検出された。
セシウム汚染を表面から二センチの土と仮定して、試算したある学者は「旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で強制移住対象となった汚染の度合いの二倍超」と指摘している。推移を注視する必要がある。
放射線量は測定方法などによって異なるという。データの収集と評価に恣意(しい)性があってはならないのは当然だ。
政府はより精緻で信頼性のある調査・分析をすべきで、データも迅速に公表してほしい。
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