立夏も過ぎて、例年なら田植えも始まるころなのに、米どころ東北の農地は津波に荒れ果て、農家の心は不安に曇る。だが、田畑は必ずよみがえる−。そんな安心への道筋を農家に向けて示したい。
しかし、津波に覆われた田んぼは、排水もままならない。米どころ宮城では、海岸から六キロ離れた農地にも海水が押し寄せ、一万数千ヘクタールの美田が被害を受けた。排水機場が破壊され、真水を流して塩を除く作業も進まない。土砂崩れや地盤沈下で荒れ果て、ひび割れた田んぼが広がっている。塩害は直接津波を受けた地域の外にも広がっている。
福島第一原発の周辺からは、高濃度の放射性物質が検出された。政府は、原発から半径二十キロ圏内の警戒区域の圏外でも、イネの作付けを禁止した。いつもの年なら田植えの準備に追われる五月、田植えを見送り、今年の収入をあきらめた多くの農家の苦衷と不安は、察するにあまりある。
稲作は東北農業の、いや、この国を支える食の根幹だ。米作りだけではない。政府は被災地の一次産業全体に及ぶこの悲しみを、重く受け止めねばならない。
農林水産業の被害総額は約一兆二千億円にも上る。東北農政局は、回復には少なくとも二、三年は必要だと見積もっている。
今すぐに必要なのは、農業再建に必要な政府予算を速やかに確保することだ。政府の関与なしには農業基盤の再建はなしえない。
その次に営農再開までの生活資金、失われた農業資材をどうあがなうかなど、農業者の暮らしの立て直しに必要な融資や補助のメニューを示すことである。
二日に成立した震災復旧への一次補正予算は、河川や道路など公共土木施設関連が中心で、農業対策の影が薄い。本格的な復興をめざす二次補正では、十分な配慮が望まれる。
一方で、農地の塩分濃度調査、除塩、用排水の補修、新たな災害対策など、生産基盤の復旧・復興に向けた中長期の工程表を整えて、例えば来年、また二年後の春には再び田植えができるという、安心と自信を農家に届けることだ。
他県からも、遊休農地の提供を申し出る声が上がっている。今すぐ土に触れたいという農家は少なくない。期間限定の入植相談に応じる窓口を、農協などが地域に開設してはどうだろう。
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