福島第一原発の放射能汚染への不安から、農水産物への風評被害が収まらない。いわれのない被害に産地は悲鳴を上げている。生産者を救うには消費者や市場関係者に冷静さが求められる。
「茨城産と言うと避けるお客さんもいる」。東京都内の農産物産直市場に出店する茨城県つくば市の農家男性は、拒否反応を示す消費者が一部にいると話す。
福島県をはじめ周辺の農産地では、食品衛生法上の暫定規制値を下回り出荷停止を受けていない作物の風評被害が深刻だ。茨城県のJAグループなどは、農産物の風評被害が約十四億五千万円あったとして東京電力に損害賠償を求めた。出荷停止による被害も別にある。農家は作るほど赤字になり、生産存続を危うくしている。
水産物も同様だ。四月五日、茨城県沖で漁をした漁船が、千葉県の銚子漁協から水揚げを拒否された。当時、出荷停止している水産品はなかった。流通側の過剰な反応だろう。
政府は風評被害も今後、損害賠償の対象とする方針だ。風評も実被害ととらえ幅広く産地を救済するよう努めるべきだ。
農産物について、政府は県単位で出荷を停止していたやり方を変えた。産地を市町村単位に細分化し、検査で三回続けて規制値を下回った作物は停止を解除するルールにした。一日も早く出荷を再開したい農家に配慮した。
この対応は適切だ。だが、規制解除後も風評被害がついて回る。
政府が検査データを迅速に公開することは当然だが不十分だ。消費者は安全に加え、安心できる情報もほしい。
先の農家男性は、消費者に作物の安全性を説明すると多くは納得してもらえるという。同じ産直市場に出店する千葉県の生産業者は、独自に検査したデータを示して理解を得ている。消費者が生産者と情報や問題認識を共有したことで不安が解消された。
消費者に生産・流通関係者、行政などが相互理解のために「双方向」で行う意見交換会「リスクコミュニケーション」という手法がある。牛海綿状脳症(BSE)対策を決める際や、三宅島火山噴火で避難した島民の帰島判断をする際などにも用いられた。今回の風評被害対策としても厚生労働省は実施を検討している。
こうした手法も活用し、産地の実情を冷静に見極めながら不安解消に地道に取り組むしかない。
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