焼き肉チェーン店の集団食中毒に警察の捜索が入った。衛生基準を守っていなかった店側の責任は重い。大量に生食用の肉が流通しているのに、形だけの規制で済ませてきた国の責任も問われよう。
焼き肉チェーン店「焼肉酒家(ざかや)えびす」で発生した集団食中毒は、富山、福井、神奈川の三県で死者四人、重症者二十人以上という深刻な被害をもたらした。
原因菌は大腸菌の一種で、強い毒素を出す腸管出血性大腸菌O111。多くの患者が生の牛肉ユッケを食べていた。一九九六年に全国を震撼(しんかん)させた腸管出血性大腸菌O157の集団食中毒を思い起こさせる。厚生労働省は当時、生の牛レバーも原因になったことを受け、九八年に衛生基準を定めるなど防止対策を取った。それなのになぜ悲劇は繰り返されたのか。
「えびす」を運営する「フーズ・フォーラス」(金沢市)の衛生管理の不備が指摘されている。保健所は、ユッケなどの生肉を出す場合、肉の表面をそぎ取り付着菌を除去するトリミングをするよう指導していたが、「もったいない」として実施していなかった。真空パックされた生肉を開封後の翌日も客に提供していた。低価格で有名で、五年で売上高を二・五倍にするなど急成長。コストを切り詰める中で、衛生管理や従業員教育は十分だったか。
感染経路は未特定だが、肉は卸業者から各店に送られた。加工や流通にまた問題はなかったか。
売る側の意識の低さに驚くが、それを放置してきた行政の責任も重い。九八年の衛生基準が全く形骸化していたことが今回明らかになった。基準は生食用食肉に関し、衛生面などの条件を満たす解体、加工業者だけが取り扱いでき、包装容器に「生食用肉」と表示することを規定。また、客に提供する飲食店にもトリミングなどを求めている。その結果、基準を満たす生牛肉の出荷は、二〇〇八〜〇九年度ゼロだ。しかし、焼き肉店はもちろん居酒屋などでもユッケは提供され、大量に消費されている。これを“ザル法”と言わずして何と言うべきだろうか。
早急に実効性のある規制に切り替えるべきだ。生食用肉を扱うための、衛生管理の講習などを義務付けるか、講習を受けた業者に認定証を交付してはどうか。消費者が店を選ぶ基準にもなろう。
われわれ消費者の自己防衛も必要だろう。特に重症になりやすい子どもや高齢者は控えたい。
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