HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 18087 Content-Type: text/html ETag: "acc216-46a7-7c695980" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 07 May 2011 20:21:42 GMT Date: Sat, 07 May 2011 20:21:37 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
女の子は母が通った小学校を訪ね、写真を見せてもらったという。〈こどものときも、おとなのときも、やさしいかおやったんやね。お母さんは、わたしのことをどう思っていますか。わたしのことすきでしたか……もう、きくこともできません〉▼阪神大震災で親を亡くした小3の記である。遺児の思いや境遇を1年後に編んだ『黒い虹』(あしなが育英会編、廣済堂出版)にある。幼い問いかけに、写真は微笑(ほほえ)みを返すだけだ▼早朝の震災では、枕を並べる親や子が眼前で息絶える悲劇が多発した。どちらもつらいが、昼中に津波が襲った今回は不明者がなお1万人いる。両親を失った18歳未満は百数十人、父母のいずれかとなれば千人を超すとみられる▼暦に気遣いはなく、こどもの日が巡り、母の日が来た。ゆがんだ洗濯機が、泥まみれのエプロンや弁当箱が、感謝を伝えたい人の不在を告げる。闘病の末でも未練は尽きないのに、日常から突然消えた母への追慕はいかほどか▼一方に、去年までの「ありがとう」を聞けぬ親がいる。何であれ、肉親を失う痛切に違いはない。阪神の追跡調査では、まとめて震災遺児と呼ばれ続けることに戸惑う人も多かった。無用な特別視は慎みたい▼「今」に追われる被災者にも、愛する人を静かに思う時が要る。傷つきやすい年頃ならばなおさらだろう。心の手当てを尽くし、学びを支えるレールを敷いたら、遠くから遺児の成長に声援を送ろう。やさしい顔が空からそっと見守るように。