HTTP/1.1 200 OK Date: Fri, 06 May 2011 21:10:35 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:こどもの日に考える 大人は五月の風になれ:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

こどもの日に考える 大人は五月の風になれ

2011年5月5日

 廃虚の空に、こいのぼりが泳いでいます。無数の夢が泳いでいます。その夢をかなえるために、大人は五月の風になれ。こいのぼりを導く風になれ。

 海岸へ、ひと筋の道路が続いています。両側に人の気配はありません。新築後間もない民家の二階が、ひび割れた田んぼの中に転がっていて、外側は残った家にも、よく見ると、窓の部分に軽自動車が突き刺さっていたりします。大津波に襲われた宮城県七ケ浜町の被災地の現実です。

 ◆子どもの笑顔がお宝だ

 一台の自転車が海の方から近づいてきて、野球部の真新しいユニホームを着た中学生が、すれ違いざまに「おはようございます」と声をかけてくれました。

 「おはよう。部活、がんばって」と応じると、少年は自転車を降りて振り返り、「はい、がんばります」。こぼれるような彼の笑顔が忘れられません。

 「子どもたちの笑顔と元気がお宝だ」。被災者の口元も、思わずほころびます。

 避難所に隣接する災害ボランティアセンターには週末、町内に住む中高生が詰め掛けます。

 全国から届く救援物資の仕分け、がれきの中から見つかった写真の整理、買い主と離れて暮らすペットの世話、避難者の話し相手…と、役目には事欠きません。

 前日に姉の葬儀を終えたばかりの高校生が、避難者を足湯に入れる手伝いに訪れたこともありました。「家や家族は無事だった」という中高生も、例外なく、すさまじい地震の揺れを体験し、津波の猛威を目の当たりにした被災者です。それでも「役に立ちたい」と、笑顔を届けに通ってきます。

 そんな子どもたちだから、息抜きの時間が必要です。大型連休前の日曜日、地元中高生と関西から来ていた大学生のボランティアがチームをつくり、センターで七ケ浜の未来予想図づくりに取り組みました。

 企画したのは、新潟県柏崎市の「未来予想図実行委員会」。四年前の中越沖地震で被災した子どもたちから、まちの明るい未来を描いた絵を集め「柏崎・刈羽 未来予想図展」を開催したのが、この活動を始めるきっかけでした。

 子どもたちが描いた未来は、ドラえもんのポケットから出てくるような空想の世界ではありません。緑に包まれた住宅地、風力発電機が回る丘、おばあちゃんと笹(ささ)あめを作る台所…。ありふれた日常こそ、被災地の子どもたちが夢見る未来なのだと、スタッフは思い知らされました。

 ◆やっぱり七ケ浜が好き

 さて、七ケ浜の未来予想図は、どうでしょう。

 模造紙をつなげた横断幕に、私の好きな七ケ浜、七ケ浜に今ほしいものなどを、約二十人の参加者が思い思いに描き込みました。

 海、魚、海水浴…。常磐木学園高校二年の池端奈々さんがアクリル絵の具で描いたのは、稲穂が実る田んぼの絵。「失って初めて、田んぼの美しさを知ったから」と、池端さんは言いました。

 そして真ん中に、みんなで決めた、まちの復興スローガンを大書しました。それは「やっぱり七ケ浜」。いろいろなことがあったけれど、やっぱりこのまちが好きだから。子どもたちの未来予想図は、大人たちが今やるべきことを示した復興へのデザインでした。

 そのころ七ケ浜の海辺では、名古屋建設業協会の有志ボランティア十四人が、津波が残したがれきの山の撤去作業中でした。

 屈強な大人たちの集団も、想像を絶する破壊の跡に最初は現場で立ちすくみ、「十四人で何ができるのか」と、疑問を覚えたものでした。ところが、持参した一台の重機を駆使して、こつこつと力を合わせ、一日半で二千平方メートルの廃虚を片付けることができました。

 その大人たちは今、夢見ています。あの場所に、いつ、誰が、何を築いてくれるのだろうか、と。

 東京・国立科学博物館で先月開催された「未来の科学の夢絵画展」。小学校・中学校の部で最高賞に輝いたのは、宮城県大崎市の小学五年生が描いた「きらわれる騒音を電気に変えて利用する装置」。騒音の振動エネルギーを吸収し、電気エネルギーに変換する機械です。可能性を感じます。「一つの命もむだにしない災害お助けロボット」という、小学二年生の作品もありました。

 ◆未来に夢を見るために

 原発に頼らなければ未来はないと立ちすくむ大人をよそに、子どもの夢は膨らみます。被災地の子どもたちにも、廃虚の跡に大きな夢を育ててほしい。

 そのためには大人たちがまず、この国の日常を取り戻さなければなりません。大人がもっと、夢を見なければなりません。

 

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