A級戦犯として、東京裁判で死刑を宣告され一九四八年十二月二十三日に刑死した東条英機元首相ら七人の遺骨は、米軍機から海にまかれたといわれる▼犠牲者として英雄視され、遺骨が崇拝の対象になるのを連合国軍総司令部(GHQ)が恐れたためだという。骨捨て場からひそかに回収された遺灰だけが、愛知県西尾市の山に安置されている。米国民からの憎悪を浴びたこの人物の亡骸(なきがら)も、埋葬されることはなかった▼二〇〇一年の米中枢同時テロの首謀者。米特殊部隊に殺害された国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者の遺体は、アラビア海に運ばれた▼米国防総省によると、遺体は空母の甲板でイスラム教の慣習に則(のっと)って清められ水葬された。埋葬の地が「聖地」になることを恐れたのだろう。A級戦犯の遺骨を海に捨てたGHQの姿勢と同様、殉教者にしないという強い意志を感じさせた▼穴蔵から引きずり出したイラクのフセイン元大統領とは違い、身柄の拘束はできなかった。銃撃戦の末だ。やむを得なかったのかもしれないが、なぜ殺されなくてはならなかったのか、遺族ならずとも知りたいことを聞く機会は、失われた▼中東では今年初めから、テロを手段としない民衆革命で独裁政権が倒れた。過激な国際テロ組織の出る幕は、もうなくなった。そう思える世界に一日でも早く。