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天声人語

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2011年5月5日(木)付

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 方言には、標準語には収まりきらない深みと幅を持つ言葉が多い。東北地方の「までい」もそんな一つだ。「真手(まて)」という古語が語源といい、転じて手間ひま惜しまず、丁寧に、心をこめて、といった意味合いで使われるそうだ▼「までいに飯を食わねえどバチあだっと」「子どものしつけはまでいにやれよ」などとお年寄りは言う。原発禍に揺れる福島県飯舘村役場に頂戴(ちょうだい)した『までいの力』という一冊で知った。言葉どおり、手塩にかけて築いてきた村の日常がオールカラー本に息づいている▼スローライフの考え方が広がり出したころ、村長はじめ村人は思ったそうだ。「それって『までい』ってことじゃないか」。以来「までい」を合言葉に、地に足をつけて村をつくり上げてきた▼ところが本の刊行直前に震災が起きた。「ここには2011年3月11日午後2時46分以前の美しい飯舘村の姿があります」。中表紙に急きょ刷られた一文に怒りと悲しみがこもる。計画避難で全村民が村を離れなくてはならない▼「までい」の教祖のような、19世紀米国のソローを思い出す。物質文明を問うた名著「森の生活」の末尾に、「われわれの目をくらます光は、われわれにとっては暗闇である」という象徴的なくだりがある。原発がともす繁栄の光は、私たちにとって何なのだろうか▼地に足をつけてきた人々が地を追われる無念を思う。とことん考えることでせめて悲痛に寄り添いたい。原発の受益者は都会人なのを忘れることなく。

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