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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
震災一色の紙面で、小さな訃報(ふほう)にはっとしたのは4月上旬のことだ。78歳で亡くなった群馬県の詩人小山和郎(こやま・かずろう)さんにお会いしたことはなかったが、その自由律の俳句〈明日(あす)も喋(しゃべ)ろう 弔旗が風に鳴るように〉を長く胸に刻んできた▼わが胸だけでなく、朝日新聞の同僚だれもの心に、忘れがたく灯(とも)っていよう一句である。24年前のきょう憲法記念日、阪神支局が襲撃されて記者2人が死傷した。深い悲しみと怒りの支局に、遺影とともに掲げられたのが小山さんの一句だった▼亡くなった友を悼んで、青年時代に作ったそうだ。この句を愛誦(あいしょう)していた社会部デスクの提案で拝借することになった。悲しみを湛(たた)えた作ながら、一読して高らかなものを吹き込まれた記憶が、今も鮮やかに残っている▼事件では言論に銃口が向けられた。だが、ひるまないで書き続けよう。そんな記者たちの意思が句に託された。喋りあう声が風を呼び、弔旗がはためくイメージは、事件と、落命した小尻知博記者を忘れない決意の象徴であり続ける▼兵庫県西宮市の阪神支局にはきょう、例年通り拝礼所が設けられる。毎年、何百人という方が立ち寄ってくださる。多くの思いが風となり、弔旗を鳴らし、私たちは言論を守る闘いに終わりはないと肝に銘じる▼この大震災のあと、東日本にはおびただしい弔旗が立つ。事件と災害は同じではないが、忘れないこと、書き続けることの責務に変わりはあるまい。明日も喋ろう――を二つの意味で今かみしめる。