今年のアカデミー賞作品賞を受賞した「英国王のスピーチ」は、王冠より恋を選んだ兄に代わり、王座に就いたジョージ六世の孤独を描いている▼吃音(きつおん)に悩む内気な王が、妻の励ましと身分を超えたセラピストとの友情を支えに、ナチス・ドイツとの開戦前夜、不安に揺れる国民への歴史的なスピーチに挑む。史実に基づいた物語だ▼現在のエリザベス女王はジョージ六世の長女。ロンドンのウェストミンスター寺院でキャサリン妃と挙式したウィリアム王子はひ孫に当たる。結婚式は百カ国以上で放映され二十億人が見守った。未来の国王が一般家庭から花嫁を迎えるのは約三百五十年ぶりだ▼相次いだスキャンダルで王室廃止論も根強い中、飾らない人柄の王子の好感度は不人気の父チャールズ皇太子を大きく上回っているという。国民から遊離すれば王室は存在意義を失う。それは日本の皇室も同じはずだ▼天皇、皇后両陛下は、東日本大震災で壊滅的な被害を受けた東北の被災地を見舞い、被災者を激励された。七十七歳と七十六歳という高齢ながら、東京都内の避難所などに何度も足を運び、皇居での自主停電も四月いっぱい続けられた▼皇后さまは、津波で流された自宅跡地に咲いたスイセンを被災者から受け取った。帰京したとき、両手には大事に抱えたその花が。どれほど被災者の励みになったことだろう。