HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 18123 Content-Type: text/html ETag: "638a94-46cb-ef2c7340" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sun, 01 May 2011 02:21:10 GMT Date: Sun, 01 May 2011 02:21:05 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2011年5月1日(日)付

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 12カ月が色を取り合えば、緑はすんなり5月のものだろう。桜を追いかけて、若葉や早苗が列島を駆け上がる月である。すっかり新色に上塗りされた中伊豆を訪ね、天城越えのハイキングコース「踊子(おどりこ)歩道」を歩いた▼モミジやコナラの緑が染めた山道に、散り残るツバキの紅一点。ザワザワ、ドドドと下る渓流に沿って、ワサビ田が段をなす。段差を流れ落ちる清水に耳を澄ますと、こちらはコロコロ、キュルルと鳴いていた▼谷風が渡るたび、ワサビの丸い葉が一斉に揺れる。沢から水を引いた人工物のたたずまいは、しぶきを飛ばして弾む奔流に比して優しく、か弱い。猛々(たけだけ)しい自然の傍らに、人知がつつましく間借りする図である▼この国の美観は、起伏に富んだ地形と四季の合作だ。前者は地震や噴火などの所産であり、後者は台風や大雪を伴う。人は泣かされながら、それらと折り合い、どうにか「間借り」を続けてきた。どうにかという語が今、ひときわ染みる▼〈風おもく人甘くなりて春くれぬ〉加藤暁台(きょうたい)。常ならば、去りゆく季節を惜しむ時期である。だが、この春を惜しむ人がどれほどいよう。忘れたくて、忘れがたい3月と4月。続きは少しでも甘くと願うだけだ▼政府と国会は、きょうからクールビズだという。節電の範を垂れるべく、期間を前後に延ばし、10月まで軽装が許される。原発をなだめつつ、がれきの処理に追われての、長い夏になる。暴れた自然の後始末に、私たち、間借り人の万策が試される。

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