統一地方選の民主党敗北を機に菅直人首相の進退問題が再燃している。政権与党の内紛にはうんざりだが、信頼なき指導者の下に結束するのも難しい。
先に行われた統一地方選は、政権与党として初めて臨んだ民主党にとって厳しい結果となった。
民主、自民の二大政党対決となった三都道県知事選は全敗。同じく二大政党対決の十市区長選でも三勝七敗と大きく負け越した。
政権交代の勢いで統一地方選にも勝利し、自民党に比べて弱さが指摘されてきた地方組織を固め、政権基盤を強化する−。そんなもくろみは、もろくも崩れ去った。
◆震災前に青息吐息
首相は、民主党の敗因を「今回の大震災に対して(対応が)不十分だったというよりも、政権交代への大きな期待に、十分応え切れない状況があり、震災発生以前から民主党に対してかなり厳しい空気があった」と語っている。
つまり、東日本大震災やそれに伴う福島第一原子力発電所の事故への対応は選挙の敗因には関係なく、震災前から顕在化していた民主党政権に対する国民の不満が選挙結果に表れただけだ、と。
国民の期待を担って誕生した民主党政権は、鳩山由紀夫前首相による米軍普天間飛行場の「県外移設」公約破りや「政治とカネ」問題、菅首相の消費税率引き上げ発言などで国民の不信を買い、二年も経(た)たずに失速。
昨年七月の参院選や主要地方選で敗北を続けた。こんな状況で統一地方選に臨んでも勝てるわけがない。二十四日の衆院愛知6区補選で候補者擁立を見送ったのは政権与党の責任放棄でもある。
三月十一日の大震災直前に時計の針を戻そう。東北を中心に大きな揺れが襲った時、国会では参院決算委員会が開かれていた。
このとき野党側が追及していたのは、首相に対する外国人による違法献金問題だ。その五日前、前原誠司氏が同じく外国人献金問題で外相を辞任しており、野党側は首相にも退陣を求めていた。
二月時点の世論調査で内閣支持率は20%台を割り、菅内閣は大震災前すでに青息吐息だった。大震災がなかったら、首相は退陣を余儀なくされていたかもしれない。
◆指導力発揮見えず
では首相が強弁するように大震災対応は十分だったのか。国民の多くが違うと感じている。
大震災関連の本部や会議が政府内に乱立するばかりで、肝心の復興の方向性が見えてこない。
被災者が切望する仮設住宅では首相が「お盆のころまで」の入居完了を目指すとしたが、国土交通省は九月末でも六割程度しか完成しないとの見通しを示す始末だ。
首相の被災地視察も「パフォーマンス」に見えてくる。
首相は「現地に行って責任者に直接話を聞いたことが、対応を立てるうえで極めて有効だった」と説明するが、首相には現地の様子を正確に伝える信頼できる僚友や部下がいないのだろうか。
時事通信社が今月十五〜十八日に行った世論調査では、大震災対応で首相が指導力を「発揮していない」と答えた人は34・1%で「あまり発揮していない」42・9%を合わせると77・0%に達する。
大震災と原発事故がほかの首相の下で起こっても、対応は菅首相と大差なかったのかもしれない。しかし、信頼を失った首相が自らの奮闘ぶりを強調しても、国民を納得させられまい。
首相が「まずは復旧復興。できれば財政再建も含めて与野党で青写真を作れば歴史的使命を果たせる」と政権延命をにおわせると、鼻白んでしまう。
統一選敗北を受け、民主党内では小沢一郎元代表らに近い議員らが首相の責任を追及する動きを加速させる。野党自民党は、民主党内の動きを見極めて内閣不信任決議案などの提出を検討している。
二〇一一年度第一次補正予算案が成立する五月二日以降、首相進退をめぐり、与野党を巻き込んださまざまな動きが出てこよう。
当面は菅首相の下に結束して国難を乗り越えるべきか、首相を交代させて新体制で臨むべきか。この五年間、毎年首相が交代していることを考え合わせると、判断は実に悩ましい。菅氏よりましな首相候補も容易には見当たらない。
◆与野党に重い責任
ただ、国民は今、それを選択する手段を持ち合わせていない。被災自治体では選挙事務ができず、「一票の格差」訴訟では最高裁が「違憲状態」判決を下した。当面は衆院選ができる状況にない。
選挙による政権選択ができない以上、首相の進退や政権の枠組みを決めるのは国会の場しかない。
国難を乗り越え、日本を再生するにふさわしい体制をどう作り上げるのか。与野党はその知恵と覚悟が試されている。党利党略や保身などは努々(ゆめゆめ)あってはならない。
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