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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
未曽有、壊滅的、空前絶後……最も激しい言葉さえ、いつしか空疎にすり切れた。それほどの現実の中で、人は前へ歩みゆく。惨禍に刻む4月の言葉から▼北上する桜前線が人を励まし慰めた。岩手県大槌町の花見会で、樹齢100年の根元のひこばえに小さな桜が咲いていた。かがみ込んだ小国ヤスさん(79)は避難所暮らしが続く。「上ばかりじゃなく、下を向いて見つけるものだってあるんだなぁ」。春風はまだ瓦礫(がれき)のにおいだ▼同県山田町の佐藤啓子さん(33)は軽い知的障害がある。高台の避難所から海を見つめて鎮魂の詩を書いた。「流れた人はずっと海にいる訳じゃないよ かぜひくよ お空になり 太陽になるよ みんなを守ってるから みんなも海とお空を見ようね」▼漁業はきびしい試練に立つ。宮城県南三陸町の漁師三浦幸哉さん(52)は、大漁旗2本を自宅跡に掲げた。「漁師はカモメと同じだでば。海に出ないと駄目なんだでば」。腕を競い合った仲間が多く落命した。彼らの分も漁で取り返す、と▼魚の仲買人鈴木吉夫さん(60)は同県七ケ浜町の家が津波で流された。どん底から商売再建を誓う。「大事なのはやる気だべ。自然もすごいけど人間もすごいっちゃ。昔から何度も立ち上がってきた」▼チェルノブイリに通って映画を作った監督の本橋成一さん(71)が「人は今こそ謙虚にならないといけない。少しずつ暮らしの『引き算』をするときがきたんじゃないか」。消尽の時代から未来に、我々は何を手渡す。