乗客と運転士百七人が亡くなった尼崎JR脱線事故が、発生から六年を迎えた。その翌日、事故の生々しい痕跡が残る現場の献花台で手を合わせた。へたり込んで泣きじゃくる遺族の姿に胸が詰まった▼ある日突然、愛する人が事故でこの世からいなくなってしまう。その痛みは経験しなければ分からない。六年という歳月も遺族には、まだ喪の途上にすぎないのだろう▼震災関連のニュースに隠れて、関西以外では大きく取り上げられなかったが、事故の検証に画期的な一歩が踏み出されていた。遺族とJR西日本が共同で、事故の背景や要因を検証した報告書の公表である▼現場カーブで運転士のブレーキがなぜ遅れたのか。遺族と加害企業が同じテーブルを囲んで十六回の議論を重ね、JR西の企業風土にも踏み込んだ多角的な分析になった▼埋められない認識の溝は残る。それでも、JR西が過密ダイヤが事故の遠因になった可能性を認め、ダイヤと運転士のストレスの関連の研究を進めることを明らかにするなど、遺族は「安全の再構築に向けた一歩」と評価した▼当時の国土交通省事故調査委員会の情報漏えい問題で、遺族の不信感が頂点に達したところから共同検証は始まった。原発事故の検証にも、長期避難を強いられる福島の被災者の参加を求めたい。その苦悩に耳を傾けることから、本当の検証が始まる。