HTTP/1.1 200 OK Date: Wed, 27 Apr 2011 00:08:08 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:震災遺児を支える 一人じゃないよ、君は:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

震災遺児を支える 一人じゃないよ、君は

2011年4月27日

 被災地には、きょうだいや友人に加え親を失った子供たちが多くいる。最愛の人の喪失という現実が、その小さな肩に重くのしかかる。

 避難生活を送る小学生の子供たち七人と「だいこん抜き」ゲームを楽しんだ。岩手県陸前高田市のある避難所でのことである。

 よくやる遊びでだいこん役数人が輪になって手をつなぎ、うつぶせに寝る。周りで鬼役の子供たちがだいこん役の足首を持ち引っ張り、つないだ手が離れたら鬼の勝ちだ。だいこんが最後の一本(一人)になるまで攻防が続く。

◆笑顔で話した衝撃体験

 被災者は早く日常生活に戻ることを願っている。子供たちにとって重要な日常は「遊び」である。避難所生活では、自由に遊ぶ時間も場所もなかなか確保できない。

 国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」が、遊びの場を提供する「こどもひろば」を各地の避難所で運営している。だいこん抜きゲームもその一コマだ。

 ゲームに参加した子供たちは、歓声を上げながら夢中になった。それは「必死に」といっていいくらいである。「もう一回」と何度もせがまれた。

 そこに小学四年のゆうくん(9つ)がいた。笑顔を絶やさない。ゲームの合間に、一緒にいる父親に買ってもらった携帯電話を見せながら、満面の笑みで言った言葉に衝撃を受けた。

 「お母さんと妹二人いないから、お父さんに買ってもらったの。みんな津波で流されちゃった」

 周りへの笑顔は、我慢して感情を出さないためだ。あまりに重い現実を受け止められるわけがない。両親がいなくなった子供はさらに深刻だろう。親がいなくなった震災遺児の心の底には、深い悲しみと喪失感がある。

◆長く癒えない心の傷

 厚生労働省によると、今回の大震災で両親が死亡・行方不明となった孤児(十八歳未満)は、岩手、宮城、福島三県で百三十人になる。大半は親戚に身を寄せたようだが、児童養護施設に保護された子供もいる。大災害で全容はまだ不明だ。

 どちらかの親がいなくなった子供はもっといるだろう。ゆうくんが通う市立高田小学校(全校児童三百一人)では、震災遺児は数十人いるとみられている。

 阪神大震災での孤児は六十八人だ。震災遺児を支援するあしなが育英会によると、実は遺児は五百七十三人(うち孤児百十人)を確認している。成人後も親の養育が必要な学生も加えたからだ。今回は被災規模を考慮すると千人は超えると育英会は覚悟している。 

 震災五年後に実施した育英会調査では、遺児の約七割に心の傷が残っていた。震災十六年後の今回の震災を見て、当時を思い出し苦しむ遺児もいる。

 ひとり親家庭も増える。生活困窮も懸念され経済支援も必要だ。

 高田小の木下邦男校長は「子供たちはとても重いものを背負ってしまった。どう接したらいいか経験がない。それでも大人が引っ張っていくしかない」と語る。

 子供たちを支えることは大人の責務だ。それを実践した先達がいる。大津波で二万人を超える死者を出した一八九六年の明治三陸地震で、孤児となった二十六人を東京で育てた北川波津である。水戸の武家の出で教養があり、思いやりと責任感の強い女性だ。孤児院をつくりキリスト教も支えに、子供の立場にたった「子供中心主義」の養護に徹した。

 主に寄付に頼る生活は困窮を極めたが、波津を紹介した「ニコライ堂の女性たち」(教文館)は、心労で体調を崩した波津のために、子供たちは自分たちの食物を減らして鶏卵を、納豆売りの仕事を増やして牛乳を買ったと伝える。波津と子供たちとの絆を感じる。波津の施設は今、児童養護施設として子供たちを育てている。

 当時は子供の社会的養護を担う制度は貧弱で、多くは志ある個人が背負っていた。現代は、社会で支える制度がある。

 児童養護施設に加え、全国里親会も動きだした。岩手県は就学などを支援する基金の創設を打ち出した。心のケアに国はスクールカウンセラー派遣を決め、育英会は神戸市に設置した遺児の心のケア施設を仙台市にも設置する。阪神大震災も経験し、社会は支援制度を積み重ねてきた。不十分なら充実させる努力を続けるべきだ。

◆社会の希望を見守りたい

 だいこん抜きゲームでは、どの子供もつないだ手を驚くほどギュッと強く握ってきた。それは不安のなかで大人に助けを求めるSOSにも感じる。子供は社会の未来の希望だ。さまざまな支援制度を通して社会が見守っている。遺児たちに「一人じゃない」とのメッセージを送り続けることが最大の支えになるはずだ。

 

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