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天声人語

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2011年4月27日(水)付

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 井伏鱒二が「姪(めい)の結婚」という小説の雑誌連載を始めたのは1965年1月だった。連載途中でこの作品が「黒い雨」に改題されなかったら、放射能の怖さを象徴する一語は、これほど流布しなかったかもしれない▼広島に原爆が落とされた後、放射能を含む黒い雨が降った。主人公の矢須子はその雨に打たれ、体をむしばまれる。22年前、今村昌平監督の映画で主役を演じたのが、亡くなった田中好子さんだった。見事な演技で映画賞の主演女優賞を総なめにした▼田中さんの早すぎる死を悼みつつ、手元の小説を読み直してみた。矢須子に向けられる偏見や差別への、作家の抑えた憤りが底を流れている。時代も事態もむろん異なるが、進行中の原発禍を思い合わせてしまう▼福島県の人が旅館やホテルで断られた。他県へ避難した子が学校で心ないことを言われた。などと伝え聞けば、憤りより先に情けなくなる。風評被害も深刻だ。「偏見は無知の子どもである」。箴言(しんげん)の突く真実がやりきれない▼「もういいよ。福島県人は福島県人だけで生きていくから」という嘆きが、東京で読んだ声欄にあった。被災地へ寄せる全国の思いも、ときに1人の不届きでかき消える。二重三重の罪深さだと心得たい▼「天国で、被災された方のお役に立ちたい」と、泣かせる言葉を残して田中さんは旅立っていった。キャンディーズのスーちゃんにあらためて惚(ほ)れ直した人は多かろう。記憶に鮮やかなあの笑顔を人界の不埒(ふらち)で曇らせたくない。

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