福島第一原発から半径二十キロ圏内が、立ち入り禁止の「警戒区域」になった。区域に居住していた約八万人に対し、納得できる説明が必要だ。高齢者が多いだけに、避難先での手厚い支援も望む。
原発事故直後から半径二十キロ圏内は「避難指示区域」となっていた。この地域が「警戒区域」と設定されたのは災害対策基本法に基づいている。退去を拒むと、十万円以下の罰金などが科される可能性もある強制的な措置だ。
だが、この区域内には約百人が残っているとみられている。「高齢なので、避難所生活に自信がない」「放っておいて」などと、不満の声も聞かれる。「避難しても、また戻る」という人もいる。
科学的データに基づいて、警戒区域とした根拠を示さないと、住民の納得は得られまい。実際に枝野幸男官房長官は「放射線量の多い少ないにかかわらず、原発の安全上のリスクが懸念されるため」と抽象的な言い回しだ。
放射能汚染の情報は、圧倒的に少ない。放射性物質の拡散予測システム「SPEEDI(スピーディ)」の情報公開も二回だけだ。政府がどれだけの情報を持っているのかも不透明で、不信が不信を生む現状だ。住民の危険度をもっと科学的に説明すべきだ。
半径二十キロという「同心円」に区域を設定したのも疑問だ。十一日には原発から北西にあたる二十キロ圏外の一部地域を「計画的避難区域」に指定すると発表した。このときは年間の放射線累積量が二〇ミリシーベルトに達すると予想されることが“ものさし”となった。
米国エネルギー省が発表した年間二〇ミリシーベルトの予測範囲は、やはり北西に四、五十キロ程度まで広がっていた。区域を同心円としたことが適切なのか、北西方向にも広げた方がいいのか。政府の“ものさし”が首尾一貫していないのは明らかだ。これでは避難する人々も到底、納得できないだろう。
放射線の観測地点を増やし、きめ細かいデータ収集もいる。個人の被ばく量を正確に把握できるバッジタイプの医療用線量計がある。回収して累積量を測定する携帯型のもので、二万人分の在庫があるといわれる。一時帰宅する住民のために、政府がこれを用いる手もあろう。
何よりも退去を迫られる高齢者に対しては、生活面での支援に万全を期す必要がある。いつまで避難するのか、その見通しも示さないと、不信も不安も増幅する。
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