オバマ米大統領は、今年一月の一般教書演説で、原子力発電のことを、太陽光や風力と並べて「クリーンエネルギー」に位置付けた▼しかし、今、福島第一原発で起きている事態を見てみよう。周辺の農家や漁業者を窮地に陥れているのは農作物や魚などの放射能汚染。原発危機の出口を探る上で、当面の障害となっているのは放射能汚染水である。もし、クリーン(きれい)なら、「汚染」など起きない▼タービン建屋などにたまっている高濃度汚染水は六万トンを超えるらしい。玉突き式に別のタンクなどへと移していき、浄化も進めつつすべてを抜き取る。それが済んでやっと、本来の冷却設備復旧の作業に入ることができるという。この汚染水との格闘、ずいぶん時間がかかりそうだ▼「万物の根源は水だ」と古代ギリシャの哲学者タレスは考えたようだが、人間が母の羊水に守られてこの世に生まれ、身体の過半を水で満たしているのは確かである。こんな句がある。<水を見て目をぬらしたる春のくれ>八田木枯(はったこがらし)▼この涙は、母、あるいは人間の存在へとつながる水への、哀(かな)しいまでの“懐かしさ”ゆえか。しかし、今、その水が、人が近づけないほど放射能で汚され、その漏出、果ては放出によって、海の水までが汚され…▼あの句とはまったく違った意味で、どれだけの人が<水を見て目をぬらし>ていよう。