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玉砕の島、硫黄島の戦いを率いた栗林忠道中将を描くノンフィクション『散るぞ悲しき』は梯(かけはし)久美子さんの力作だ。書中で梯さんは、軍中枢で戦争を指導した者と前線で生死をかけた将兵とでは、「軍人」という言葉で一括(ひとくく)りにするのがためらわれるほど違う、と感慨を述べている▼そして「安全な場所で、戦地の実情を知ろうともせぬまま地図上に線を引き、『ここを死守せよ』と言い放った大本営の参謀たち……」と続けている。歴史は繰り返すという。福島第一原発の事故に、その残像を見る思いがする▼時代も事情も異なるが、東電本社と、未経験の危機と闘う現場に、「大本営と前線」の落差が重なる。きびしい使命にもかかわらず、伝え聞く作業従事者の処遇はずいぶん酷だ▼体育館で雑魚寝をし、寝袋は使い回しだという。これでは疲れは取れまい。参謀の「作戦」にも疑問符がつく。たとえば汚染水を止めるために吸水性ポリマーや新聞紙を投入した。作業員の一人は「そんなもので水は止まらない。現場はあきれて仕事していました」(週刊朝日)▼放射能の恐怖に加えて、収まらぬ余震。テレビの取材に一人が「まさに戦場です」と言っていた。収束への見通し6〜9カ月は、精神論で乗り切るには長すぎる▼中国の兵法「三十六計」で名高いのは「逃げるにしかず」。しかし今は踏みとどまるしかない。現場と国民に対して欺瞞(ぎまん)の大本営であるなかれ。東電だけではない。菅政権への気がかりは、より大である。