マグニチュード(M)9・0の巨大地震の余震が続き、被災した東北地方をはじめ全国の不安をかき立てる。いつ収まり、いかなる備えをすべきか。
地震には本震よりやや小さい余震がつきものだ。一九四四年十二月の東南海地震(M7・9)の翌年一月、誘発された三河地震(M6・8)は津波を伴い、約二千三百人が死亡した。二日続きの安政東海、南海地震(一八五四年十二月、ともにM8・4)の十一カ月後も大きな余震があった。
今回の大震災後、余震の回数が異様に多く、M7級を含む規模も大きいのは事実である。
◆心配されるM8級余震
理由はまず、地震の規模が巨大だったことだ。M9・0地震の余震頻度はM8・0の十倍という。また本震の震源域が広いため、余震が起きる地域も海底から内陸部にわたる。とくに内陸が震源の直下型は、規模に比べ強い揺れとなり、一段と不安をあおる。
日本の地震研究者の名を取った大森・宇津公式は、余震の頻度について世界的に用いられている。それによれば、余震の頻度は時間の経過に反比例する。
名古屋大学大学院環境学研究科地震火山・防災研究センター長の山岡耕春教授は、今回の余震も公式通りに減少しているが、実際に余震が気にならなくなるのは、今年末ごろとみている。
一番心配なのは、本震がM9・0なのでM8級の激しい余震が、広い余震域のどこで、いつ起こるかわからないことだ。
海底で起これば東北地方太平洋沿岸で再度、津波の恐れがある。余震発生は東北から房総半島沖まで南北に長く分布しており、以前から警戒対象となっている首都直下型地震の可能性も否定できない。
◆「東海」などにも警戒を
細かい余震多発は大規模なものの前兆の場合があり、注意が必要だが、短期間で頻発する余震への対策は限られる。被災地域、被災しなかった地域とも、時を要する備えは現実に間に合わない。
被災地では、住民が残る避難所と建設予定の仮設住宅の立地、とりあえずの耐震性の見直しは不可欠である。仮設住宅がまた津波にさらわれてはならない。被災しなかった地域では、家具の固定、最小限の身の回り品の準備はいうまでもない。
もしも首都圏に大型の余震が波及すれば、混乱は想像を絶する。経済活動の分散などを考えるべきではないか。
今回の震源は太平洋プレートと北米プレートの境界付近だ。心配される東海、東南海・南海地震の震源域は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界で、関連はまだ小さいという。
しかし今回の巨大地震で、日本列島全体が東北から関東、中部地方にかけ東西に数メートル引き伸ばされたと、多くの研究者が見ている。このため、余震域を震源とする狭い意味の余震以外に、静岡県東部や長野県北部、秋田県などで誘発とみられる地震が起きている。
静岡県東部は、東海地震などの震源域となるプレート境界面に近く、東海、東南海・南海地震に対して無警戒ではいられない。
今回の大震災では、東京電力福島第一原発事故によって発生した放射性物質の処理が難航して、周辺地域に大きな被害と不安を与えている。今月七日夜の余震で東北電力女川原発(宮城県)の外部電源も一時、停止した。それらがまた地震や津波に襲われたらどうなるか。
◆“想定”は当てにできぬ
東海地震などが直撃する遠州灘に面して、中部電力浜岡原発が立地する。福島第一原発事故を受け同社は、海沿いの砂丘(高さ十〜十五メートル)と原発施設の間に海面上十五メートルの防波壁を新設する。完成に二〜三年を要するという。
災害が襲ってくる前に間に合うか。仮に間に合っても、津波の波高八メートル程度という想定に不安はないのか。今回の大震災は、地震学者、国、自治体の防災担当者、電力会社のいずれもの想定が正しくなかったことを忘れてはならない。私たちは、大きな教訓と悲劇を目前にしたばかりなのである。
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