栃木県の国道293号の一部は徳川家康の没後、日光の東照宮に供え物を奉献するための勅使が通った道だった。いまも「例幣使(れいへいし)街道」と呼ばれている▼支局に勤務していたころ、何度も通った国道沿いに、花束とジュース、お菓子が冷たい雨に打たれていた。サッカーボールには「いままでのいろいろなこと忘れないよ!」の言葉が添えてあった▼鹿沼市で起きたクレーン車の暴走事故で集団登校中の六人の小学生が亡くなった。渋滞する時間帯なのに対向車線の車にぶつかることもなく、児童たちの列に突っ込んだ。容疑者の男は「居眠りをしていた」と供述しているという▼せめて一メートルずれていれば、電柱に激突して止まったのでは…。思っても仕方がないことをつい考えてしまった。「泣く子は育つ」との格言にちなむ「泣き相撲」で知られる生子(いきこ)神社はすぐ近くにある。六人の児童も赤ん坊のころ参加したのではないかと想像すると胸がふさがれる▼サッカー選手、花屋さん…。夢も一瞬で失われた。ほこりまみれのランドセルの写真を見て、多くの児童の行方がいまも分からない宮城県石巻市の小学校の被災現場が思い浮かんだ▼震災から一カ月近く経て、泥の中から見つかった二つのランドセルがあった。子どもの未来が突然、奪われることほど悔しいことはない。それが自然災害であっても、事故であっても。