江戸時代、しけが続くなどの事情で、大坂から江戸に油が来なくなり、油の値段が上昇する経済現象を「油切れ」と呼んだ。司馬遼太郎さんは「油切れは、江戸では頻発し、そのつど市民が騒動して不穏の空気をかもした」と自著の『ある運命について』で書いている▼江戸時代、行商人が油差しで桶(おけ)から客の器に移す際に、油のしずくを切るのに時間がかかった。それを待つ間に客としゃべっている姿がサボっているように見えることから生まれた言葉が「油を売る」だ▼東日本大震災で、ガソリン不足が深刻になり、スタンドに車の長い列ができた。計画停電の地域では、信号機も動かなかった。現代でも「油切れ」は、暮らしを不安に陥れる最大の要因であることは変わらない▼東京・高円寺で開催された反原発デモの後、近づいてきた男性が「電気がなかったらどうやって暮らすんだ!」と声を荒らげたと、作家の雨宮処凛さんが本紙夕刊に書いていた▼今の便利な生活を維持するために、今回の事故のような恐怖を味わうことは本末転倒ではないか、という雨宮さんの考えに共感する▼菅直人首相はきのうの参院予算委員会で「従来の先入観をすべて白紙に戻し、なぜ事故が起きたのか根本から検証する必要がある」と述べた。御用学者を排した第三者機関で徹底検証してほしい。もう、油を売っている時間はない。