福島第一原発の事故で福島県から避難してきた子供が「放射線がうつる」といじめられた。放射性物質への不安からだろうが、偏見や差別はつらい状況に置かれている被災者をさらに苦しめる。
三月、福島県から千葉県船橋市に逃れてきた小学生のきょうだいが、公園で周りにいた子供たちにいじめられたとの情報が市教育委員会に寄せられた。
市教委は、市内の小中学校など計八十三校に、避難者の気持ちを考えて言動に注意するなど適切な指導を求める通達を出した。当然の対応だ。
避難者への偏見や差別は他にもある。避難先の旅館から宿泊を断られたり「泊めても大丈夫か」と行政に問い合わせをする宿泊施設もあった。宿泊拒否問題は参院予算委員会で、福島県選出議員が取り上げ政府に善処を迫った。
トラブルにならなくても、日々、避難生活をするなかで、予想もしなかった差別的な対応を受けた人もいるに違いない。
だが、茨城県東海村のJCO臨界事故で被ばくした作業員の治療にあたった前川和彦・東京大学名誉教授が「原発周辺からの避難者は被ばくを受けたわけでもなく、汚染も否定されている人たち。差別される理由が全く理解できない」と言うように誤解だ。
避難指示の基準となる放射性物質の規制値も安全を重視して厳しく設定されている。
放射性物質の理解不足による偏見や差別は、広島・長崎の被爆者たちを長年苦しめてきた。就職、結婚だけでなく、被爆者の子供や孫にも及んだ。原爆症と二重の辛苦を味わってきた。
原発事故を受け長崎県内の被爆者五団体は「ヒバクシャ」差別が繰り返されないよう対策を菅直人首相に要請した。放射性物質への不安解消には、政府の正確な情報提供が不可欠だ。
特に、子供たちには大人の不安がそのまま影響する。船橋市教委は保護者との連携も求めた。大切な視点である。大人が正確に情報を把握し放射性物質についての正しい知識を持つことが偏見や差別をなくす第一歩になる。
福島県を含め被災地から東京、千葉、埼玉、神奈川の一都三県の公立学校に転入した小中高校生は三千人を超える。避難先で安心して暮らせる配慮がほしい。
福島県の被災者は地震、大津波、原発事故の三重苦に直面している。偏見や差別を助長させて四重苦にしてはならない。
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