HTTP/1.1 200 OK Date: Sat, 16 Apr 2011 22:10:51 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:大震災の現場で考える 黙とうと明日への気力:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

大震災の現場で考える 黙とうと明日への気力

2011年4月17日

 三陸の海に立つと、大津波にさらわれた犠牲者の多さに、胸が締め付けられます。死者と行方不明者が約二万八千人。「まず黙とうを」と感じました。

 のこぎり形をしたリアス式海岸を仙台市在住の民俗研究家・結城登美雄さんと回りました。東北各地の漁村や農山村を丹念にフィールドワークする在野の学者です。

 岩手県の陸前高田、宮城県の唐桑(からくわ)半島、気仙沼、石巻…。車が坂道のカーブを下り、海が見えるたびに、それまでの農村風景はがらりと姿を一変させます。廃虚へと向かう下り道なのです。

◆大津波の傷痕なお深く

 結城さんは「ああ、地獄絵だ」「この浜も根こそぎやられた」と、ため息も深くなります。

 家は粉々になり、原形をとどめません。あたり一面はがれき。浜という浜が、この惨状です。大津波のすさまじさを物語ります。

 死者は現在、約一万三千人ですが、遺体の捜索活動は続き、残酷な数字がさらに膨らむのは間違いありません。慄然(りつぜん)とします。

 大半の児童が津波にのみ込まれた石巻の大川小学校前では、女児が小さな背中を丸めて、合掌していました。牡鹿半島には土葬所があり、数十の墓標が整然と並んでいました。失われた多くの命をみんなで供養し、まず冥福を祈りましょう。

 「壊滅とはこのことですね」と結城さんは声を落としました。全国の海岸線の平均五・六キロごとに集落があり、その数は約六千三百に上ります。

 「海の国ですよ。とくに三陸は三十世帯から五十世帯の小さな漁村が連なり、浜ごとに暮らしの場がありました。ただ漁業者の高齢化が進み、漁業の自給率も60%に落ちました。今回の津波でとどめを刺された感じがします」

◆「浜の再生こそ第一だ」

 確かに宮城県は全国第二位の水産県ですが、二十トン未満の小型漁船の90%にあたる約一万二千隻を失いました。二十トン以上の漁船も半分しか残りませんでした。漁港も、カキやワカメの養殖施設も、冷凍・加工施設も…。宮城県の水産被害は現在、約四千億円と見積もられています。

 「とどめを刺された」というのは、水産業の人々が、簡単には立ち直れない状況だという意味です。死者も避難する人も大半は海辺に住んでいました。避難者のほぼ半数は元の場所には、住みたくないようです。津波の恐怖が刻印され、家や船や職場もなくし、心まで沈んでいるのでしょう。

 唐桑半島の漁師(75)は漁船を沖合に出し、無事でした。でも、「船を流された仲間は九分九厘、やめるんでねえか。船に何千万円もかかるし、漁具もやられたから、借金しても返せない」。別の漁師(61)も「漁の見通しなんて立たねえな」と暗鬱(あんうつ)でした。

 初夏はカツオ漁が風物詩です。秋はサンマ、冬はカキが旬になります。季節は待ってはくれません。自然の力で大打撃を受けた水産業でしたが、自然の恵みの豊かさもよく知る漁師たちです。

 「魚を捕るのが生きがいの人たちでもあります。被害甚大な浜の再生こそ、第一だと考えます。エネルギーは代替できても、食料は代替が不可能な絶対価値を持っているからです」(結城さん)

 三陸沖は世界三大漁場の一つです。その価値を放置するわけにはいきません。

 「次世代のことも考え、小さな魚を海に返し、いかだの台数を制限し、資源管理型の漁業をしてきました。海を大事にし、海と向き合ってきたのです」

 視察に訪れた菅直人首相と応対した石巻商工会議所・水産部会長の須能邦雄さんは、私にこう言いました。

 「三陸の海の幸を捕ってくださいという声がある限り、必ず復活できます。でも、個人が船をゼロから造るのではなく、国が船を造り、貸してほしい。水産施設も国が造る。そんな発想がほしい」

 結城さんは消費者の役割にも目を向けます。「『食べる』という支援もあるのです。毎月三千円でも、みんなが三陸の魚を買うと応援してくれれば、漁師はマイナスからの出発でも、『やろうぜ』と意欲が湧きます。『力の合流』が大事だと思います」

◆みんなで「力の合流」を

 復旧とは何かも問われています。道路や水道など社会インフラの原状復旧が従来は基本とされてきました。でも、東北は日本の「食」を担う重要な地域です。漁船や冷蔵倉庫、加工施設という産業インフラが壊滅状態では、魚を捕ることも、海産物の生産もできません。農水産業の基盤復興も当然、政府は考えるべきです。

 「国は船を造れ」の言葉は的外れではありません。明日への気力を生み出すために、みんなの「力の合流」を望みます。

 

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