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未曽有の悲劇を、国民全体の支え合いを強化する議論につなげたい。
被災地では、着の身着のままで避難した人たちの多くが、不十分ながら医療や介護を受けられている。この「当たり前」が維持されているのは、それに従事する人たちの献身的な努力があるからだ。
家族の安否が確認できないまま、患者に対応し続けた医師や看護師がいる。停電の間、入居者の人工呼吸器を止めないため、自家発電の燃料確保に走り回った施設の職員がいる。
■不可欠な財政基盤
しかし、献身だけでは長続きしないことも明らかだ。必要な人にサービスが提供される状態を永続させるには、公的な財政基盤が不可欠である。
日本には、医療や介護の公的保険があり、医療なら3割、介護なら1割の自己負担でサービスを受けられる。今回の被災者の場合、自己負担が免除されており、その費用は補正予算に計上される。
こうした「当たり前」の社会保障は、私たちが払う保険料と税で支えられている。
ところが、この仕組みは深刻な問題を抱えている。
震災前の日本で、津波に擬せられていたのは人口の高齢化と少子化だった。
支え手が減るなか、支えられる側が増え、社会保障の費用は膨らみ続ける。しかも、かなりの部分を借金で賄い、次世代へツケを回している。
このままでは「支え合い」を維持できない。そんな危機感から、社会保障と税を一体的に改革しようというのが、政治にとって重要な課題だった。
その青写真を描く首相官邸の「集中検討会議」は、震災の影響で本格的な検討が遅れていたが、担当の与謝野馨経済財政相は月内には正式な会議を再開させ、当初の予定通り一体改革案を6月中に示す意向だ。
■課題の整理に工夫を
この動きは評価したい。目下の課題が原発事故への対応や被災者の生活再建であることはもちろんだが、財政悪化、社会保障のほころびという国難が消えたわけではない。むしろ、震災が支え合いの必要性を痛感させた今こそ、受益と負担を考える好機ととらえるべきだ。
まず、震災と関連づけながら課題を整理するところから議論をスタートしてはどうか。
被災者の生活を支えるため、医療、年金、介護、失業給付、雇用対策といった現行制度が、どんな役割を果たしているか、あるいは不十分なのか。
多くの人たちが、すすんで義援金を寄せている。「自助」だけでは困難な状況に陥った被災者を親身に考えてのことだろう。一方で、「共助」のための保険料、「公助」のための税を増やすことに、まだ多くの人が納得していない。なぜなのか。
震災では、カルテが失われ、「飲んでいた薬がわからない」という患者が少なくなかった。社会保障と個人情報をつなぐ共通番号制があれば、診察の履歴が調べやすく、災害時などでの治療に役立つのではないか。
負担面でも、震災がもたらした影響を踏まえる必要がある。
1次補正予算では、基礎年金に充当するはずだった2.5兆円を震災復旧に回す方向だ。
子ども手当を抜本的に見直すことも検討に上がっている。
子ども手当は、これまで少なすぎた現役世代への給付を充実する意味合いもあった。削らざるをえないなら、高い所得を得ている高齢者世帯に対する課税強化や年金の支給開始年齢の引き上げなど、国民が広く薄く痛みを分かち合うすべも考えていくべきだろう。
■乗っている船は一つ
すでに社会保障は一般歳出の半分以上を占めている。必要な財源をどんな形で、どれくらい準備していけばいいのか。
総額16兆円とも25兆円ともされる復興費用を今後捻出していくには、前提となる国の財政がきちんと健全化できるめどを立てておかなければならない。
日本経済に対する震災の打撃が大きい現状では、消費税の増税をはじめ、負担増に踏み切る時期については十分に配慮すべきだ。
だが、すでに金融市場はじりじりと金利上昇圧力が高まっている。財源のあてがないまま野放図に借金が膨らんでいけば、国際経済も巻き込んだ大きな混乱につながりかねない。消費税の使い道を社会保障に限定する目的税化など、国民が納得いく負担のあり方について、議論を詰めておく必要がある。
震災とともに、人口高齢化の津波も乗り越える。そのためには、与野党が真っ正面から話し合う基盤が必要だ。党が違っても乗っている船は一つなのだ。
国際社会が日本の政権のマネジメント能力そのものを問題視しつつある局面でもある。危機対応に臨みつつ、山積する重要課題に目配りした政策運営を、改めて菅直人首相に促したい。