時、場所、場合を意味する英語の頭文字をとって「TPO」という言い方があるが、あれは和製語らしい。服装や行動などに関し「TPOを弁(わきま)える」などと使う▼永田町で、菅首相に退陣を迫る声が強まっているという。野党ばかりか、小沢元民主党代表までが倒閣に動きだした気配。統一選での民主党惨敗が勢いづかせたらしいが、もちろん震災対応への不満も強い▼確かに、控えめに言っても、菅さんの舵(かじ)取りは上々とは言い難い。非常時に国を引っ張るリーダーらしい迫力にも欠ける。ただ、TPOも考えなくてはなるまい▼時−未曽有の大震災から一カ月余だが、なお不明者一万人余、避難者は十数万人。場合−被災地救援も福島第一原発危機への対応も復興計画づくりも、すべてがまさに進行中。場所−その中心たる中央政界。さて首相交代論は「TPOを弁えている」か▼首相が頼りないのだから知恵も力も貸して、当面は総力戦で国難に立ち向かう。それがTPOを弁えた政治のあり方だろう。いがみ合いは震災対応に区切りがついた後、好きなだけどうぞ。今は、政治の混乱で国民や国際社会を一層不安にさせる愚は勘弁願う▼リンカーンがある演説の中で言った言葉がある。<川を渡っている途中で馬を乗り換えるのは上策でない>。何とか激流を渡りきろうと奮闘中の日本だ。当てはまらないはずはない。