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2011年4月16日(土)付

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震災と東京―一極集中で、よいのか

東京は「強い首都」だった。カネ、モノ、人材、情報。その集積が集積を呼び、日本を引っ張り続ける。1カ月と5日前までは――。大震災で一転、その弱さをさらけ出すことになった。[記事全文]

INAX判決―実態にあわせ団交権を

人々の働き方はますます多様化し、仕事をさせる側とする側との関係も大きく変わりつつある。そんななか、働き手の権利を重視する判決が最高裁から言い渡された。トイレや浴室、台所[記事全文]

震災と東京―一極集中で、よいのか

 東京は「強い首都」だった。カネ、モノ、人材、情報。その集積が集積を呼び、日本を引っ張り続ける。1カ月と5日前までは――。

 大震災で一転、その弱さをさらけ出すことになった。

 当日の夜は自宅に帰れぬ人があふれた。計画停電に企業も人々も振り回された。そして今、放射能の不安がじわり広がる。外国人ビジネスマンや観光客が街を去る動きもある。

 東京はこれまでの東京でよいか。東京で働き、暮らすすべての者に突きつけられている。

 まず求められるのは、震災に向き合うことだ。東京は、農水産物や工業製品、電力供給のかなりの部分を東北と北関東に頼ってきた。被災地の復興のために支援を惜しむべきでない。

 都営住宅などで被災者を受け入れたほか、都内の親類宅に身を寄せる人も少なくない。ふるさとのつながりを尊重しつつ、官民挙げて支えたい。

 日本の消費生活の中心でもある。節電やムダ減らしに励むと同時に、過度の自粛で縮こまるのはやめたい。産品を買うことで被災地を応援する方法だってある。節度ある日常。東京人の常識力が問われる。

 今後30年間にマグニチュード7クラスの首都直下型地震が起きる可能性は70%、想定される犠牲者数は1万3千人――。ずっと前からの宿題も、急に目の前にのしかかってきた。

 林立する高層マンション群は余震のたび激しく揺れる。いざというとき、救命や消防は。備蓄は十分か。燃料を行き渡らせるシミュレーションはあるか。政府や自治体の職員が被災しても住民を支援できるか。備えを早急に点検すべきだろう。

 中央省庁や大企業は、東京から離れた場所にデータや指揮系統のバックアップ態勢を整えているか。首都が直撃されれば、影響はとても大きい。

 東京一極集中の是正を、真剣に考えるときではないか。いま進行中の危機と、いつか来る危機に備え、日本の軸をばらけさせ、地域間のネットワークや相互補完で乗り切る。この国のかたちの問題でもある。

 非常時の東京都知事に、石原慎太郎氏(78)が4たび選ばれた。選挙戦が低調なまま、有権者は現職の安定性に託すしかなかったともいえる。

 石原氏は「高度防災都市に変える」「東京はダイナモ。東京から日本を救う」と力説した。だがそのダイナモ(発電機)が冠水し、助けを求める側になるかもしれない。そのことを頭に入れ、かじ取りをしてほしい。

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INAX判決―実態にあわせ団交権を

 人々の働き方はますます多様化し、仕事をさせる側とする側との関係も大きく変わりつつある。そんななか、働き手の権利を重視する判決が最高裁から言い渡された。

 トイレや浴室、台所の修理をするINAX(現リクシル)の子会社との間に、個別に業務委託契約を結ぶ技術者について、最高裁は「労働組合法で保護される労働者にあたる」と判断した。そのうえで会社側に対し、技術者らが作った労組が求める団体交渉に応じるよう命じた。「技術者は会社と対等の関係にある外注先であり、労働者とはいえない」とした二審の東京高裁判決は破棄された。

 実態に即した結論といえる。

 技術者らは会社から修理の依頼があれば拒むことは事実上できない。制服を着て、仕事にのぞむ心構えから接客態度まで会社のマニュアルに従うよう求められ、受け取る修理代金の算定方法も決められていた。契約書の文言・形式はどうあれ、実際の運用や当事者の認識こそ重要だ。判決が全国の労働現場に及ぼす影響は大きい。

 働く者が団結し、待遇や条件などをめぐって使用者側と交渉する。憲法が保障する基本的人権のひとつだ。一人ひとりは弱い存在でも、まとまって行動することで使用者と対等の立場に立つことができる。

 ところが最近、企業が自前の社員に担当させてきた業務を、外部に委任したり請負に出したりする例が増えている。こうした労働者の非正規化や業務の外部化は、働く者の権利の空洞化を招くと指摘されて久しい。

 内外の競争に勝つために効率化は欠かせないし、世の中が自由な働き方を求めた面もある。

 しかし法律による保護と救済からこぼれ落ちる労働者が増えると、社会は安定を欠き、経済活動の沈滞にもつながる。

 加えてこの大震災だ。被災地に限らず雇用情勢は厳しくなるだろう。企業を支える政策の推進とあわせて、便乗解雇や安易な待遇の切り下げがないか、監視の目を光らせなければならない。労組の使命も重い。

 組合運動は企業内労組のあり方への不信などから衰退の道をたどった。しかし個人で加盟できる労組が幅広く認知され、いわゆる派遣切りへの異議申し立てや反貧困運動で実績を積んだことにより、「横のつながり」の大切さが再認識されている。

 労働者の孤立化の流れに一定の歯止めをかけた今回の判決を踏まえ、働くことの意義やあるべき労使関係について社会全体の認識を深めていきたい。

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