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天声人語

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2011年4月15日(金)付

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 亡き主人を迎えに渋谷駅に通う秋田犬の悲話を、「いとしや老犬物語」と伝えたのは手前みそながら本紙だった。昭和の初め、忠犬ハチ公の誕生だ。死因は寄生虫とされるが、がんも患っていたという。精勤10年。病身の忠誠はこの動物の才を語る▼生前に銅像が建ったハチほどではないが、この震災でも「奇跡の犬」が生まれた。沖に流された屋根の上から、3週間ぶりに救われたバン。飼い主と再会し、ちぎれんばかりに尻尾を振る姿に、「家族の絆」を思った▼何匹、何頭が津波にのまれただろう。人の生死と同列には語れないけれど、ともに生きた何人目かの家族である。愛犬を助けに戻って濁流に消えた人、家畜の世話のために避難を拒む人もいる▼やせこけ、放射能の中をさまよう犬や牛馬の姿に、啄木が詠んだ光景の貴さをかみしめる。〈路傍(みちばた)に犬ながながとあくびしぬわれも真似(まね)しぬうらやましさに〉。屈託のない犬と、あやかりたいと眺める歌人。今にしてみれば、夢のような退屈である▼生かされたペットには、仕事がある。愛する人の不在は埋められないが、小さな命は生きがいとなる。無垢(むく)に和み、食べさせ寝かせ、頼られることを支えに、再生への長旅に踏み出す方もおられよう▼「あなたは一人じゃない」といった励ましが、世界中から寄せられている。絶望の闇を抜け、この言葉の深さを誰かと確かめ合う日々が、被災者に訪れることを願う。その時あなたに寄り添うのは、一人ではなく一匹かもしれない。

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