政府は、福島第一原発周辺の避難指示区域の拡大を検討している。実施されれば、さらに多くの住民が域外への避難を強いられる。対象区域の住民への十分な説明から始めるべきだ。
現在、政府は原発から二十キロ圏内で避難指示、二十〜三十キロ圏内で屋内退避指示を出している。二十キロ圏外で放射性物質の累積量が高い地域について計画的避難区域に設定することを決めた。一カ月以内に避難を開始する。
二十〜三十キロ圏内でこの区域以外の地域を、緊急時に避難などができるよう準備を求める緊急時避難準備区域にする。二十キロ圏内は、退去命令など強制措置がとれる区域にすることも検討中だ。
原発から約四十キロ離れている福島県飯館村など五市町村も計画的避難区域の対象地域とする。
枝野幸男官房長官は区域拡大の理由に「その土地に長期間いると、健康に影響を及ぼす可能性が生じる」と長期的な放射性物質の蓄積による影響を挙げた。
原発については「大量の放射性物質が出るリスクは相当程度小さくなっている」と言うが、原発への対応が長期化するのなら、それを明確に説明する必要がある。
避難生活を送る原発周辺自治体の首長らは「いつ帰れるのか分からないのがつらい」と口をそろえる。原発で何が起きているのか分からず、土壌汚染の状態も知らされていない。
どういった状況になれば住み慣れた地域へ帰れるのか、あるいは残念だが帰れないのか。原発の状況や観測データ、見通しの期間、その根拠などで正直に示すべきだ。
二十キロ圏内の避難指示は突然だった。着の身着のままで逃げた人も多い。身の回りを整理できる余裕がほしい。一時帰宅も放射線量を勘案しながら柔軟に実施する必要がある。
飯館村の菅野典雄村長は「数値が低い地域の人は残れないか」と要望したが、認められなかった。それが無理ならば、数値が下がった地域ごとに帰宅を許可するなどの対応はできないか。
子供たちは新学期が始まってからの移動だ。避難先では住宅に加え、学校や役所機能の受け皿も要る。各自治体が率先して受け入れてきたが、政府が責任を持ち受け入れ先確保にも取り組むべきだ。
二十キロ圏内からだけでも避難住民は現在、約八万人いる。避難指示区域を拡大させるのならば、住民を納得させる責任がある。
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