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最もあってはならぬことで、世界トップになってしまった。福島第一原発事故の評価が、1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故と並ぶ最悪の「レベル7」(深刻な事故)に引き上げ[記事全文]
我が国の刑事裁判史上例を見ない犯罪であり、刑事司法の公正さを揺るがした――。大阪地裁は、大阪地検特捜部検事による証拠改ざん事件をそう断じて、証拠隠滅罪に問われた前田恒彦[記事全文]
最もあってはならぬことで、世界トップになってしまった。
福島第一原発事故の評価が、1986年の旧ソ連チェルノブイリ原発事故と並ぶ最悪の「レベル7」(深刻な事故)に引き上げられた。原子力安全・保安院と原子力安全委員会の発表である。
大気に出た放射性物質の総量を見積もった結果だ。これでわかった事故の巨大さを、深く心に刻まなくてはならない。
「レベル7」を、原発周辺に住む人々の避難、長期の健康管理や地域の復興計画、国のエネルギー政策など、さまざまな施策を考える出発点としたい。
半減期の長い放射性物質も多く出たのだから、住民の健診を長く続ける必要がある。農林水産業の再生は、残留放射能を把握したうえでの対策が求められる。そして、原発依存社会を見直す動きも強まるだろう。
放出量はチェルノブイリ事故の1割前後だという。だがそれよりも深刻な一面もある。
複数の炉が一斉に機能不全となり、1カ月たっても安定しない。いつどのように事態が収まるかの出口も見えない。私たちの前には、巨大な敵がまだ居座っている。
いま最も力を注ぐべきは、事故をこれ以上、大きくしないことだ。
11日夕の余震では、福島第一1〜3号機の炉への注水が約50分間、外部電源が絶たれたことで止まった。電源が復旧してことなきを得たが、事故炉を冷やす必須の作業が、綱渡りの状態にあることがわかる。
注水は、最悪の事態を防ぐ生命線だ。いかに余震があったとはいえ「電源喪失」を二度と繰り返してはならない。一つの電源がだめになっても、作業員を危険にさらさず、自動的に別の電源に切り替える仕組みを工夫してほしい。
「レベル7」を重く受け止める。だが、この認定で現実の事態が変わったわけではない。放出された放射性物質の大半は震災から数日のうちに漏れたものだ。最近は大気中の放射線量も落ち着いている。
大切なことは、放出の規模が「7」級だということを踏まえて、観測態勢を強め、それに沿って機敏な対策をとることだ。政府は円形状に避難域を定めていたのを改めた。だが新しい地域設定も、不変のものととらえるべきではない。
「レベル7」で、原発周辺の人々が負わされる重荷の大きさがはっきりした。それを、どれだけ国民全体で担うことができるかが、いま問われている。
我が国の刑事裁判史上例を見ない犯罪であり、刑事司法の公正さを揺るがした――。
大阪地裁は、大阪地検特捜部検事による証拠改ざん事件をそう断じて、証拠隠滅罪に問われた前田恒彦被告に懲役1年6カ月の実刑判決を言い渡した。
判決によると、厚生労働省の村木厚子さんの無罪が確定した郵便不正事件で、主任検事だった前田被告は押収品のフロッピーディスクのデータを検察に有利なように書き換えていた。
弁護側は、被告が反省しているとして寛大な刑を求めたが、大阪地裁は「社会に与えた衝撃の大きさも重く考慮せざるを得ない」と実刑を選んだ。納得できる判断だ。
最高検は公判や内部検証で、上司だった元特捜部長が村木さんの摘発を強く求め、捜査の見立てに矛盾する消極的な意見を嫌ったことが、前田被告を改ざんに走らせた、と指摘した。
つまり、村木さんの不当な逮捕から証拠改ざんに至った事情を元特捜部長の個人的な資質に求めている。しかし、問題は検察の捜査体質そのものにあったのではないか。
法務省に置かれた「検察の在り方検討会議」の調査に対し、検事の4人に1人が、実際の供述と異なる調書を作るよう指示された経験があると答えた。
あらかじめ描いた構図に沿って自白を迫り、否認しても聞く耳をもたない。そんな取り調べが郵便不正事件以外にも広がっていたと推察される結果だ。
元特捜部長は、改ざんの報告を受けながら、それを隠した犯人隠避罪で元副部長とともに起訴された。2人は起訴内容を否認し、無罪を主張する方針だ。
その公判で特捜検察のあり方や冤罪(えんざい)を生んだ背景が明らかになるか。注目したい。
最高検は再発防止策として、特捜事件での決裁強化や主任検事に補佐役の配置、取り調べの一部録画などを打ち出した。
検討会議の提言を受けて、江田五月法相は先週、「全過程の録画」も試行するよう検事総長に指示した。速やかに実施に移さなければならない。
判決を前に、大阪地検特捜部は、大阪勤務の経験がない新部長を据え、空席だった副部長も復活させた。再出発の形を整えたつもりかもしれない。
しかし、権力犯罪を犯した特捜部という組織が再び独自捜査を進めることに国民の理解は得られたのか。証拠改ざんが発覚して以降の検察の一連の対応は、国民の信頼を取り戻すのに十分だったのか。
道なかばの観が強い。