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Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
送電用の鉄塔が折れ曲がり、泥にうねる高圧線を見下ろしている。どの子の部屋から転がり出たのか、傍らに地球儀があった。褐色の中の青が悲しい。海と発電、恵みをもたらすべきもの二つが牙をむいた▼ひと月を経ても、福島県南相馬市は災いの中だった。津波の不明者はなお千人を数え、事故原発に近い南部は避難を強いられている。天災と人災が絡み合う、この惨禍の縮図である▼南相馬から福島市に抜ける高地に、新たに避難を指示される飯舘(いいたて)村がある。際立つ放射線レベルの高さは、風向きや地形の都合らしい。役場の前に立ち、深く息を吸う。風の香のように、あると思えばあるし、ないと思えばない。実害と風評の間は、限りなく透明に近いグレーが満たしている▼取材2日前から、浴びた放射線の総量を示す線量計を携えた。福島県内では東京の5倍ほどのペースで数値が増えたが、3日間の積算は胸のレントゲン0.2回分。むやみに恐れては「風」の思うつぼだ▼しかし、音もなく変わる表示の不気味さは、永住者でないと実感できまい。県境を越えて避難した3万4千人の大半が福島県人という。市町村から安住の地が消える非情が現に進行している▼〈ただじっと息をひそめている窓に黒い雨ふるふるさと悲し〉。福島の美原凍子さんが朝日歌壇に寄せた。1カ月後の不明者が2人だった「阪神」と違い、万の行方が知れず、故郷を離れる人が絶えない。余震も続く。私たちはまだ、長い闘いのとば口にいる。