三島由紀夫の衝撃的な死から四十年たった昨年、数多くの三島論が発表された。その中で、強く印象に残ったのはインタビューに答えた石原慎太郎東京都知事の回想だった▼「結局、あの人は全部バーチャル、虚構だったね。最後の自殺劇だって、政治行動じゃないしバーチャルだよ」(『三島由紀夫と戦後』)。「(三島を)本当に好きだった」という分析は、作家の鋭い感性が光っていた▼「四選不出馬」が伝わった時、晩年の代表作となる長編小説の執筆をひそかに期待した。でも、それは難しくなったようだ。一転、都知事選の出馬に踏み切った石原さんが四選を果たした▼東日本大震災という未曽有の国難が、経験豊富な現職に有利に働いたのだろう。記者会見で、石原さんは国民に「我欲」を捨てよとぶち上げたが、後継含みだった松沢成文・神奈川県知事では勝てないからと出馬に踏み切ったことこそ「我欲」ではないのか。そう突っ込みたくなった▼原発の事故は長期化が必至だ。首都として復興支援の中核を担いながら防災対策を練り直す必要がある。新銀行東京の経営問題や築地市場の移転など都政の課題も多い▼七十八歳の石原さんの四期目はこれまで以上の激務がのしかかってくる。いままでのように、週に数日の登庁というわけにもいかなくなるだろう。やはり小説の執筆など期待してはいけない。