HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Sun, 10 Apr 2011 03:10:58 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 新たな復興を目指そう:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 新たな復興を目指そう

2011年4月10日

 父や母、祖父祖母が戦争の焦土に掲げた復興を再び目指すときが来ました。その道は人類の行く手を照らす新たな可能性を探ることに通じるでしょう。

 大津波をはね返すはずの大堤防を、やすやすとのみこむ波頭。助けを求める人々、家や車を容赦なく押し流す黒い濁流。安全すぎると豪語された原発のもろさ。

 私たちが三月十一日以来、目にしたものは、それまで信じてきたものが崩れさる光景でした。

 恐怖や試練は去っていません。いまだに万余の人々の行方が知れず、避難した人たちの仮住まいの見通しも立っていません。

◆悲劇の中に希望も

 目に見えない放射能汚染の影響は農産物や魚類、土壌、海洋へと広がっています。重苦しい雰囲気に包まれている中で、声高に話しあったり笑ったりすることがはばかられ、体の不調を訴える人も少なくありません。

 しかし、私たちが震災以来、目にしてきたのは絶望に打ちひしがれるような光景ばかりだったでしょうか。実は、それとは逆に日本とそこに住む人々を見直し、明日に希望を奮い立たせるような出来事も数多く起きていたのです。

 外国メディアが驚嘆した通り、被災地では極限状況の中でも人々が理性を失わず、助け合う姿がありました。最愛の肉親を失い、あるいは行方がわからなくても、被災した人たちの救援に奮闘する多くの勇敢な人々がいました。

 原発災害に立ち向かい命懸けの放水を行った消防隊のリーダーは部下より自分の被ばく量が多かったことでほっとしたと語りました。現場で奮闘する自衛隊、消防、警察の隊員たちの寡黙な態度は、人々の胸を打っています。

◆日本人本来の美質

 震災前の日本は経済規模でも中国に追い越され、政治も混乱し、何事につけ自信を失っていました。日本人は、まじめでひた向きな態度や、みんなのために尽くす自己犠牲の心など失ったのではないかといった論議もありました。

 信念や誠実さよりも、パフォーマンスによる人気取りがうまい政治家がもてはやされ、中身のない言葉があふれていました。

 震災は、すべてを変えてしまいました。人々は生命と社会の危機に直面し、本物と偽物を判別する本能に目覚めたのです。震災前と同じパフォーマンスを続ける政治家たちの姿は何と、こっけいで醜く見えることでしょう。

 中世に日本を訪れた西洋の宣教師たちは、武士や農民たちが強制されることもなく、社会の決まりや約束を守り、助け合う姿を見て、日本人は神のように暮らしていると驚嘆したといいます。

 震災という試練は日本人に本来、持っていた美質を見いださせ、それは現場でいかんなく発揮されています。これこそ大規模な予算や機材の投入より重要な復興の決め手ではないでしょうか。

 忘れてはならないのは、自然や災害は科学や技術でねじふせられるという明治維新以来、日本が西洋から学んできた思想の限界が明らかになったことです。過去の津波を教訓に築いた三陸の大堤防を大津波はやすやすと越え、人々の堤防への過信が避難の遅れとして裏目に出たとされます。

 安全をうたい文句にした原発も肝心の炉心を緊急に冷やす装置の電源を外部に頼り、その施設を海側に置くお粗末さでした。原発に先鞭(せんべん)をつけた米国でさえスリーマイル島事故以来一時慎重になったのに、島国で人口が密集する日本は自らを過信し営々と原発建設を続けてきたのです。

 西洋思想を受け入れる以前の日本は、洪水対策でも遊水地や沈下橋(洪水時は水没する橋)を多用したように、自然の猛威を力でねじ伏せるより、それを受け入れる考えがありました。根底には神に選ばれた人間を世界の中心に置き万能と考えるよりも、万物に神が宿り、時に「荒ぶる神」となる自然をおそれる縄文以来の日本の伝統思想があったのです。

 日本はアジア太平洋戦争で世界で初めて原爆の業火を浴びました。それを教訓に戦後、掲げた戦争放棄の憲法と平和主義に徹した歩みは、世界の多くの国々から評価されてきました。日本が未曽有の地震、津波と原発災害から、日本人本来の美質を発揮して、いかなる復興を実現するのか。世界は再び日本に注目しています。

◆新たな文明の道を

 自然を力で支配することができると考えてきた西洋の近代思想は、地球温暖化を制御できなくなったように、明らかに行き詰まっています。日本が西洋思想とは異なる自然と共存できる防災や国づくりの在り方を見いだすことができれば、それは人類の新しい文明の道を指し示すことにもつながるに違いありません。

 

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