この夏、東京電力と東北電力の供給力が著しく低下する。電力各社は地域独占に浸り、融通体制は貧弱このうえない。政府、電力などが協働し、日本全体で融通し合える送電網増強に着手すべきだ。
東電、東北電は東日本大震災で被災した福島第一原子力発電所をはじめ、原発二十一基のうち十七基の運転が止まっている。
津波で損傷した火力発電所を再稼働させても冷房の急増で需要量の四分の一、千八百万キロワット不足する。仲間の電力会社に回してもらえばいいはずだが、それが全く頼りにならない。
日本の電力の周波数は東電、東北電などの東日本が五〇ヘルツ、関西や中部電力などの西日本が六〇ヘルツ。ところが、融通に欠かせない周波数変換所の能力は百万キロワットにすぎない。焼け石に水も同然だ。
東電は二〇〇七年の新潟県中越沖地震でも柏崎刈羽原発が停止し綱渡りの供給を強いられながら、変換能力の増強を怠ってきた。
日本の電力会社は発電から送電までを一貫して担う「発送一体」や、地域独占に守られて高収益を維持している。新規の発電事業者にも公平に送電線を使わせるべきだとする「発送分離」論の台頭を、「発送一体こそ電力の安定供給にとって不可欠」と押し返した過去もある。これこそ既得権益の壁というべきではないか。
発送分離は、欧米のように風力などの発電事業者にも送電線を全面開放せざるを得なくなる。周波数変換の増強も、送電容量が拡張されて新規事業者が利用しやすくなり、自らの足元を脅かす。それが変換増強を怠った電力会社の本音であり、電力不足の原因の一つと批判する専門家は少なくない。
原発に代わる火力発電所の新設は早くて五年前後かかるが、周波数変換所の増強は突貫工事で一年ほどで済むという。日本の電力の総供給能力は二億五千万キロワット。その一割が融通可能とされ、東西を行き来するパイプは格段に太くなる。政府は復旧の優先課題に掲げ、直ちに計画を立案すべきだ。
今夏は節電でしのぐにしても、電力不足の長期化は自動車、電機などの生産を広範囲に滞らせ、日本経済の土台を揺るがす。発送分離に踏み込み、送電網を鉄鋼などの独立系発電業者にも開放して新たな電力供給の安定化策を築く度量も試される。
政府は電力、変換機器会社などとオールジャパン体制を立ち上げ、総力戦で変換能力を増強し復興を支えるよう求めたい。
この記事を印刷する