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無情というほかない。東日本大震災からまだひと月もたたない。人々が喪失と向き合い、生活を取り戻すために動きだそうというときである。深夜の東北地方を、最大震度6強の揺れが襲[記事全文]
この夏、電力不足による大停電を避けるための大規模な節電計画がまとまった。東京電力と東北電力の管内では、産業界も一般の家庭も、ピーク時の使用電力を昨年より15〜25%切り[記事全文]
無情というほかない。
東日本大震災からまだひと月もたたない。人々が喪失と向き合い、生活を取り戻すために動きだそうというときである。深夜の東北地方を、最大震度6強の揺れが襲った。
震源は宮城県沖でマグニチュード(M)7.1。それだけでもめったにない大地震だが、M9だった3月11日の本震の余震だという。
M9の地震後、少なくとも半年はM7級の余震を覚悟する必要があるという専門家の指摘もある。まだまだ気をやすめることができない状態が続く。
こうしたなかで、なによりも気を配るべきは、被災地の人々が二重、三重の被害に遭わないようにすることだ。
余震がきたとき、仙台市内の体育館では、照明が音を立てて揺れ「落ちてきそうで怖かった」と感じる住民がいたという。被災者がどれほど揺れにおびえているかがわかる。避難所の安全策にまず心を用いたい。
被災地では、復興に向けたさまざまな作業が始まっている。これらの仕事も、大きな余震が今後も起こる可能性を織り込みながら進めてほしい。
一方、最も気がかりなのは原子力発電所である。
この余震で、東北電力の東通原発では外部電源が切れて、非常用発電機を動かすことになった。女川原発でも一部の外部電源しか使えなくなった。福島第一原発の事故のきっかけが電源喪失だったことを思い返すと、背筋が寒くなる。
外部電源がこれほどもろいなら、非常用発電機がすぐ働くかどうかを改めて確かめ、それもだめなときは電源車を使うという多重の態勢を万全にする必要がある。
「福島第一」の失敗を、絶対に再現してはならない。
東北地方の原発は、本震や余震で何度も揺すられてきた。弱くなっているところがないか心配だ。点検を急ぐべきだ。
3月11日の本震のように海底のプレート(岩板)境界で起こる巨大地震は、余震の域を超えた大地震も伴うことがある。
たとえば、1944年の東南海地震の2年後には南海地震が起こっている。1854年には安政東海地震の翌日に安政南海地震が続いた。双子地震と呼ばれる。
さらに、プレート境界の大きな動きが影響して、内陸の活断層が刺激されることもある。
日本列島は今、地震リスクが高いとみるべきだろう。東北だけでなく全国で、地震への備えを強めたい。
この夏、電力不足による大停電を避けるための大規模な節電計画がまとまった。
東京電力と東北電力の管内では、産業界も一般の家庭も、ピーク時の使用電力を昨年より15〜25%切りつめて、やりくりしなければならない。
不便を強いられることに変わりはない。だが、どの機器や設備を優先して利用するか、使う側に選択権があるぶん、計画停電よりはずっとましだろう。生産活動への影響も小さくなる。
電力の供給能力が回復するのに年単位の時間を要することは避けられそうにない。夏以降も長期の電力不足が続くことを念頭に、さまざまな節電対策を講じていかなければならない。
その一つとして、電力料金を引き上げたり割り引いたりすることで、節電へと誘導する方法を提案したい。
例えば、家庭向けでは契約しているアンペア数によって基本料金が違う。東電の場合、30アンペアは819円、60アンペアだと1638円。もっと差をつけて、一度に使える電力が少ない低アンペア世帯を増やせないか。
あるいは、平均的な世帯が夏場に使う以上の電力を使用した場合、超過分の値段を高くしてもいい。
大企業については、緊急時に供給を止められる代わりに料金を割り引く「需給調整契約」を拡大するという。割引率の拡大など、使い勝手をよくする工夫も合わせて検討してはどうか。
政府内には、料金体系を変えることが値上げにつながるとして否定的な意見もあるようだが、こうした手法の主眼は「利用者本位」の考え方にある。利用者の選択肢が増えることは、競争を促す契機にもなる。
福島第一原発の深刻な事態を受けて、私たちは原発に極力頼らない社会をどうつくるかもまた、考えていかざるをえない。
安易な電力消費に負荷をかけて歯止めを設けていく。それは東日本ばかりでなく、日本全体で取り組むべき課題でもある。
とはいえ、「料金引き上げが電力会社の増収になるのは納得できない」という人は少なくない。新たな原資は、避難を余儀なくされている原発周辺住民への補償や被災地の復興、新エネルギーの開発研究費などに充当するべきだ。
現在徴収されている電源開発促進税の使途のうち、新エネルギー対策用の比重を高め、同時に課税強化で電力使用を抑制していくのも一つの手だ。
電力の賢い使い方を一人ひとりが考える。この夏の節電を、その好機ととらえたい。