HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 32215 Content-Type: text/html ETag: "a3cdaf-5d04-2871fb00" Cache-Control: max-age=2 Expires: Thu, 07 Apr 2011 23:21:03 GMT Date: Thu, 07 Apr 2011 23:21:01 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
福島第一原発の北西にある福島県飯舘(いいたて)村は、妊婦や乳幼児を村外に避難させることを明らかにした。村内の大部分は、政府が避難や屋内退避を指示している半径30キロ圏の外側にあるが、これまで[記事全文]
冷たい泥水につかって行方不明者を捜す。重い防護服をまとい、原発に立ち向かう。被災地のあちこちで、自衛隊員が黙々と災害救援活動を続けている。投入されているのは10万人超と[記事全文]
福島第一原発の北西にある福島県飯舘(いいたて)村は、妊婦や乳幼児を村外に避難させることを明らかにした。村内の大部分は、政府が避難や屋内退避を指示している半径30キロ圏の外側にあるが、これまでの大気や土壌の調査で放射線量が高い場所が見つかっている。
政府はいま、現行の避難地域を広げる検討をしている。放射性物質の飛散は風向きや地形の影響を受ける。同心円状に広がるとは限らない。飯舘村の人たちが直面しているような実態が見直しに反映されるだろう。
現在は半径20キロ以内が避難、20〜30キロ圏内を屋内退避としている。原子力安全委員会の防災指針に沿ったもので、避難する放射線量の目安は50ミリシーベルトだった。屋内退避なども、短期を想定した指示だった。
ところが原発の不安定な状態が長引き、放射性物質の放出も続きかねない。長期間さらされる前提で、対策を切りかえる必要がある。当然の対処だ。
安全委は新たに、浴びる放射線が積算で20ミリシーベルトになる場合を避難の基準とする考え方を伝えた。国際放射線防護委員会(ICRP)が、原発事故などの緊急時を考えて計算した目安にもとづく。
数値が厳しくなるので、新しい基準を使うと、今は避難地域になっていない地域も、新たに対象になるところが出てくるだろう。
避難は、住民に大きな負担を強いる。なにが最も住民のためになるかを最優先に考えなくてはならない。
放射線による影響が懸念される乳幼児や妊婦は一番に避難させてあげたい。入院患者に動いてもらうのはマイナスもある。
一方で、必需品を取りに一度、家に戻りたいという住民の希望も切実だろう。
そのためには、きめ細かな指示が求められる。避難地域を見直すにも、一時帰宅を安全に進めるにも、鍵になるのが観測データの充実だ。
放射性物質がどう広がるかを予測する緊急時迅速放射能影響予測(SPEEDI)システムを使って濃度が高くなりやすい地域を割り出し、観測をより密にするというやり方もあろう。
SPEEDIは先月に1回公表されただけだ。予測の限界を明確にしたうえで、利用できるようにするべきではないか。
現在の放射能の広がりと、それによるリスクの評価を専門家がわかりやすく説明する。それが周辺の住民はもちろん、国民の理解を得るために、ますます大切になってきた。
冷たい泥水につかって行方不明者を捜す。重い防護服をまとい、原発に立ち向かう。被災地のあちこちで、自衛隊員が黙々と災害救援活動を続けている。
投入されているのは10万人超と全自衛隊員の半数近い。500機を超す航空機や50隻余の艦艇も機動力を発揮している。
巨大地震、大津波と原発事故の複合危機に対処するため、菅直人首相は一気に過去最大規模の動員を命じた。その判断は間違っていなかったといえる。
地震発生後、救助した住民は2万人近い。出動の遅れが指摘され、規模も小さかった阪神大震災に比べると、今回の初動は迅速だった。数々の支援活動も順調に進んでいる。
災害救援には、組織だった人員と大きな機動力をもつ自衛隊の存在が欠かせない。しかし、同じ組織でも、運用しだいで結果に大きな開きが出ることは過去の事例が証明済みだ。
今回の働きは、これまでの教訓をもとに、政府、自治体と自衛隊が災害派遣のあり方をめぐり、見直しや改善を積み重ねてきた成果だ。
たとえば知事の派遣要請手続きが簡素化された。即応できる部隊の常時待機や一定の震度以上の自主派遣が可能になった。陸海空の指揮系統を一元化した初の統合任務部隊を立ち上げたことも大きい。
茨城県東海村の臨界事故をきっかけに、自衛隊に原子力災害の出動要請ができる仕組みができていたし、長年の日米共同訓練の経験は米軍による「トモダチ作戦」でも生きた。
周到な準備と絶えざる見直しがいかに重要かがわかる。
救援活動は今後、被災者に密接に寄り添う復興支援などの新たな段階に移る。地元自治体の被害が甚大なだけに、自衛隊には引き続き大きな期待が集まるだろう。一層の連携ときめ細かな気配りを期待したい。
阪神大震災の派遣期間は約3カ月に及んだ。被害の大きさを考えると、それを上回る長丁場となるのは間違いない。
多くの遺体を運んだり、放射線を浴びながら作業をしたり、過酷な活動はまだまだ続く。すでに隊員の疲労はピークに達しているが、10万人態勢にこだわる余り、十分な体力回復ができていないとも伝えられる。ここは要員の交代などを行いつつ、長期戦に備える必要がある。
日本の防衛に加え、海賊対処や国連平和維持活動など海外任務もおろそかにできない。業務に優先順位をつけ、規模を柔軟に増減させる。今後も長期化を見すえた態勢で臨んでほしい。