民主、自民両党の「大連立」構想が再燃している。東日本大震災への対応を強力に推進するのが名分だ。国難に際して与野党の協力は必要だが、いきなり大連立とは性急すぎはしないか。
大連立をまず仕掛けたのは菅直人首相だ。先月十九日、自民党の谷垣禎一総裁に電話で、副総理兼震災復興担当相への就任を要請。
谷垣氏は「あまりに唐突な提案だ」としていったんは断ったが、自民党内でも時限的な連立には応じるべきだとの意見も強く、谷垣氏は大連立を選択肢から排除しない方針に転換した。谷垣氏は首相経験者らから意見を聞き、週内にも見解を表明するという。
民主党が三閣僚を増員する内閣法の改正を提唱したのも、大連立の受け皿にする意味合いがある。
首相や民主党が未曽有の大災害に対応するため、過去に災害復興の実績を積んできた自民党の助力を得たいという気持ちは理解できる。国家的危機に対応するため、与野党が協力し合うのも当然だ。
大連立こそが国難に立ち向かう最も効果的な手段であり、それによって現在の危機的状況が著しく改善されるのであれば、二大政党が堂々と連立すればよい。
ただ、今は大連立よりも前にすべきことが、あまりにも多い。
大震災後に、各野党は政府への協力を表明し、政府と与野党による対策合同会議の枠組みが作られた。国会には専門的見地から議論を深める委員会・調査会もある。これらを十分に活用せず、いきなり大連立に持ち込むのはあまりにも浅慮に過ぎる。
大連立ができれば、国会での衆参ねじれ状態は解消されるが、国会から批判勢力をなくし、審議の形骸化に拍車をかけかねない。
首相が大連立を持ち掛けた背景に、政権の安定や延命を図る狙いがあるのなら見過ごせない。
大震災で内閣総辞職や衆院解散・総選挙が遠のいた今、政権に入って政府のポストを得たり、大規模な復興プロジェクトや予算案づくりに関与した方が得策との判断も、大連立を望む自民党の一部にはあるのかもしれない。
最も重要なことは原発事故を収束させ、復興を本格軌道に乗せることで、被災者が平穏な暮らしを一日でも早く取り戻すことだ。
そのためにも、大震災前のような不毛な与野党対立は避けるべきだが、党利党略や私利私欲が先に立つような大連立など、国民に理解されるわけがない。
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