『ゲット・バック』は、ビートルズナンバーの中でも最もよく知られた曲の一つだ。そのなじみ深いリフレインは、たとえば故郷を捨てたジョジョという男にこう呼び掛ける。<帰れよ(ゲットバック)、帰るんだ(ゲットバック)、元いた場所へ>▼大津波被災地の「3・11」の前と後の様子をとらえた航空写真を見る。その対比のむごさにあらためて胸をえぐられる。「前」は、びっしり家々が立ち並んだ多くの人の故郷の街。それが「後」では、跡形もない▼人と故郷を切り離したのは津波だけではない。たとえば、福島第一原発のある福島県双葉町は役場機能ごと約千二百人の町民が県内、次には、さいたま市のさいたまスーパーアリーナへと集団避難し、最近、埼玉県加須(かぞ)市へと三度、移った▼避難所はもちろん、伝(つて)を頼って遠方の地で避難を続ける人も多い。<帰りたい、帰りたいんだ、元いた場所へ>。そんな声なき声の合唱を聴く思いがする▼その原発の危機もなお去る気配がない。自然が創造した猛々(たけだけ)しい力さえ科学で制御できると考えたのは傲慢(ごうまん)だった。もしやこれは文明という便利に飼いならされた人間への「ゲット・バック」の呼び掛けか。つい、そんな大仰なことも思う▼<この道はまちがいなりと森へ帰り樹上にもどりし猿もありけむ>村松建彦。そこまでとは言わないけれど、私たちが<元いた場所>のことを考えてみてもいい。