江田五月法相に提言された検察改革案は、取り調べの全面的な録音・録画の制度化には踏み込まなかった。新たな場で、前向きに検討を促す内容だ。改革案を足がかりに全面可視化を実現させたい。
「検察の在り方検討会議」は、郵便不正事件に絡む大阪地検の証拠改ざん・隠蔽(いんぺい)事件を受け、これまで十五回の会議を続けた。
「検察の再生に向けて」と題された提言書で、最も注目されたのが、取り調べの全面的な録音・録画(可視化)についてだ。無罪になった厚生労働省元局長や、過去の冤罪(えんざい)被害者の悲劇を繰り返さないため、可視化が最も有効な手だてだとみられていたからだ。
取り調べの問題性は、最高検が全検事に行ったアンケートでも如実に表れている。「実際の供述と異なる特定の方向で供述調書を作るように指示された」という質問に対し、26%が「当てはまる」と回答した。無罪になると、キャリアにマイナスの影響があると感じる検察官も31%にのぼった。
つまり、構図どおりの調書を作るために、強引な取り調べが行われ、公判でも「無罪」へと引き返すことができない検察の体質が浮き上がったわけだ。
検討会議でも、可視化論議は白熱したが、捜査当局OBの委員などが「自白を得にくくなる」などと反対論を繰り返した。その結果、提言では可視化の制度化にまで踏み込むことはできなかった。先送り感は否めない。
ただし、可視化の範囲を一層拡大すべきだとする前向きの提言内容となった。特捜部の独自事件では「できる限りの録音・録画に努め、試行開始後一年をめどに検証する」ことも求めた。
さらに新たな「検討の場」を設け、「可視化の法整備の検討が遅れることがないよう、速やかな議論を進める」ことを記した。“半歩前進”と受け止められる。
検討の場は幅広い層から人を集めることが大事で、そのプロセスも公開でなければならない。検討の議論がだらだらと遅延するようなことがあっても困る。
上司が決裁する「縦のチェック」のみならず、異なる部が起訴を判断する「横のチェック」の構築も提言に盛り込まれた。検事が順守すべき倫理規定や、内部に監察体制をつくることも提案されたが、違反した場合の制裁規定がない点には疑問符が付く。何より、提言を“空文化”させぬ誠実な努力と決意を検察に求めたい。
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