いつの間にか日脚が伸びている。東京では桜もきのう、開花した。時が止まってしまったような三月十一日から半月。それでも、春は乾いた大地を潤わせ、太陽の力ですべての生命を柔らかく包み込む▼職場の向かいにあるソメイヨシノも一輪、二輪とほころんでいた。花をめでる気持ちにはとてもなれないが、ぷくっと膨らんだピンクのつぼみは躍動感にあふれていて、大人になる前の若いエネルギーを感じさせた▼「被災した人たちを勇気づけるプレーを」。そう誓った東北高校の球児は帽子に「宮城県孝行」と記しきのう、甲子園での初戦に臨んだ。敗れたものの、全力疾走は失意に沈む人たちの希望になったはずだ▼被災地では、津波で流されるなどして数十万冊もの教科書が使えなくなった。新学期のスタートを直前に控え、学校は再開するめどが立たない▼二〇〇四年に亡くなった詩人の川崎洋さんは六十五歳の時、阪神大震災で被災した子どもたちに詩を書いている。<孫のようなきみを/どうなぐさめていいか言葉がみつからない>と戸惑いを隠さずに▼<ただ太陽に手を合わせる/きのうより一回だけ多く/きょう/笑いがきみの顔に広がるように/一回でも多く/じょうだんがきみの口から飛び出すように/一回だけ多く/好きな歌がきみの口から流れるように/おーい/きみ>。そう、一回でも多く。