HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 18061 Content-Type: text/html ETag: "21fabc-468d-7cd9bb80" Cache-Control: max-age=1 Expires: Sun, 27 Mar 2011 02:21:40 GMT Date: Sun, 27 Mar 2011 02:21:39 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2011年3月27日(日)付

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 どの国や民族にも人々の襟を正させる話がある。英国では16世紀のフィリップ・シドニー卿の逸話が名高いそうだ。文武両道に秀でた高貴な人物で、スペインとの戦争に従軍して足に重傷を負った▼戦場から後方へ送られる途中、あまりの渇きに水を求めた。手にした水筒を口に当てようとしたとき、瀕死(ひんし)の一兵士がじっと見つめているのに気づく。シドニー卿は自分は飲まないまま水筒を手渡して言った。「汝(なんじ)の必要の方が大きい」と。友人による伝記が伝える話だという▼水道水から基準値を超す放射性ヨウ素が出た東京で、店からペットボトルの水が消えた。その後基準を下回ったため、都はいったん乳児の摂取制限を解除した。だが福島原発の事故は予断を許さない。幼子のいる親は気が休まるまい▼「ただちに影響はない」が政府の常套句(じょうとうく)だが、人生は長い。「のちのちの影響」を誰もが心配する。影響を受けやすいのは乳児である。品薄は関東の他県でも著しい。ここは大人は「汝の必要の方が大きい」と譲る度量を見せたいものだ▼奪い合えば無くなるものも、分け合えば足り、譲り合えば余る。この夏の関東圏は電力が大きく不足するという。冷房は熱中症が心配なお年寄りが優先となろう。それぞれの便利や快適を、少しずつ削って差し出し合う意識が、いよいよ大事になる▼被災地の辛抱強さ、規律正しさは世界を驚かせている。異国の故事に求めなくとも、胸を打つ話を日々伝え聞く。助け励ますべき後方が取り乱していては申し訳がないと、わが肝に銘じる。

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