東日本大震災の余波が列島を覆う非常事態のさなか、東京都知事選が告示された。都民が命と暮らしを託すリーダー選びだ。これからの東京をどうするのか。候補者の声にじっくり耳を傾けたい。
余震が後を絶たない。水道水や野菜が放射能に汚染された。電力供給はままならず、品薄の食料や燃料に右往左往する毎日だ。被災地の支援や避難者の保護には全力を挙げなくてはならない。
今や東京でさえ大わらわだ。電気やガソリン、ボランティアの人手を節約して地味な舌戦となりそう。とはいえ、選挙は民主主義の根幹を形づくる大切な行事に変わりない。
だから、候補者には中身の濃い政策論争を期待したい。有権者はそれを吟味する沈着さが必要だし、投票率の低迷は防ぎたい。
心配なのは、地域ごとに交代で電気を止める計画停電だ。投開票にコンピューターが使えず、すべて手作業で、となると選挙事務を担う現場は混乱しかねない。夜間に停電すれば、さらに厄介だ。
選挙の公正が損なわれたり、疑われたりするような失態は許されない。選挙管理委員会は前もって手を打っておいてほしい。
大震災と原子力発電所の放射能漏れ事故は、いや応なく首都決戦の焦点を浮かび上がらせた。日常の暮らしや人生観を揺さぶられた人は多いだろう。
原発事故に伴う節電で都心のオフィスは照明を落とし、繁華街のネオンは消えた。電車は減り車内の暖房さえない。夜間には帰宅を急ぐ人の姿が目立ち、にぎわいがうせたといっても過言ではない。
この異常事態はいつ元通りになるのか。東京のこれからをどう描くのか。有権者が候補者に一番聞きたい問いに違いない。
富と情報と人が集まる東京だが、電車や車、電話といった社会基盤や高層建物の脆(もろ)さ、衣食住の危うさはすでに明らかだ。東京は肥大化するに任せていいのか。そんな不安や焦りを抱く人もいる。
被災地をみれば、多くの命を救ったのは家族や近所、学校、地域の人たちのつながりだ。住民自治の表れだろう。高齢者の孤独死や行方不明といった東京が抱える問題が思い浮かぶ。
現職の石原慎太郎氏が三期十二年にわたって手掛けた都政の検証も大事だ。都が千四百億円を出資し、経営再建中の新銀行東京を続けるのか。老朽化した築地市場を移転するのか。候補者は分かりやすく語ってほしい。
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