法廷で彼の主張に数時間、耳を傾けたことがある。なぜ、十七人もの人を殺傷したのか? 理由を知りたいと願うほど、言葉はするりと逃げていった▼東京・秋葉原の無差別殺傷事件で、東京地裁はきのう、元派遣社員加藤智大被告に死刑を言い渡した。厳しい指弾に被告は身じろぎもしなかったという▼休日の歩行者天国で突然、命を奪われた七人の遺族、重い後遺症に悩む被害者にとって、携帯電話の掲示板での嫌がらせを動機とした被告の説明は到底、納得できないだろう。「なぜ?」を抱えながら生きる苦しみを思う▼青森出身の加藤被告は、仙台市の人材派遣会社で一年半働いたことがある。震災の被害に遭った友人がいるかもしれない。災害で奪われた命と自らの愚かな行為によって奪ってしまった命。両方の重さを彼は受け止められるだろうか▼福島第一原発から飛散した放射性物質が首都圏の水道水から検出され、ミネラルウオーターの買い占めも起きる中、東京都と神奈川県でもきのう、知事選が告示された。自粛ムードの中、候補者の多くは当然のように「防災」をキャッチフレーズに掲げていた▼被災した東京電力の原発は、東北電力管内にある。地方に設置された原発がつくり出す電力に、首都圏の住民が依存している実態が突きつけられた。今後も原発頼みを続けるのか。候補者に問うてみたい。