東日本大震災の大津波は、本当に「想定外」で、住民の生命を救えなかったか。次の東海、東南海・南海地震で同じ事態は果たして繰り返されないか。
大震災発生から一週間以上がたった。犠牲者の数は、約二万二千人が亡くなった明治三陸地震津波(一八九六年六月)に匹敵か、場合によってはそれを上回る。
被災の全容判明には、まだほど遠い。国土交通省などによる道路や河川の調査一つをとっても、職員が現地に入って実情を把握したものの、通信網の途絶で情報そのものが発信できない。
史上最大規模は事実
今回の巨大地震について、地震の専門家や防災行政の担当者の間では、「信じられない」「千年に一度の頻度で起きる地震」との見方が強い。はたしてそうか。
東北、北海道沖は、日本海溝、千島海溝で太平洋プレートが陸側プレートの下に沈み込む。日本周辺で、津波を伴う地震の発生が最も懸念される区域の一つである。現に明治以降も明治三陸地震津波を筆頭に、昭和三陸地震(一九三三年三月)、十勝沖地震(五二年三月)、北海道南西沖地震(九三年七月)などが頻発している。
プレート境界に近い岩手・宮城沖、福島沖、茨城沖の三カ所で、次々に断層面がずれて起きた今回の地震のマグニチュード(M)9・0という規模は、日本の災害史上最大なのは事実である。津波は最速十分で海岸に到達、最大波高は十五メートルを上回ると計算された。
しかし「理科年表」(国立天文台編纂)によれば、明治三陸地震津波の波高はいずれも現・岩手県大船渡市の吉浜二四・四メートル、綾里三八・二メートル、同宮古市の田老一四・六メートルの記録がすでにある。
また二〇〇〇年代にはいり、日本・千島周辺の海溝型地震の防災対策特別措置法が施行され、東北四県と北海道の百十八市町村を推進地域に指定、被害想定に基づき津波をはじめ防災対策を進めてきたはずである。結果的だが机上の空論だとはいえまいか。
さらに心配がある。大震災後、長野県北部、静岡県東部などで強い地震が続いたことだ。十五日夜に静岡県富士宮市で震度6強を観測した地震は、大震災による地殻変動が影響し起きた可能性を、政府の地震調査委員会は認めた。
では一連の地殻変動が、かねて懸念されている東海地震、東南海・南海地震の発生を促進したり、激化させはしないだろうか。
中央防災会議の想定で、津波は東海地震で房総半島から紀伊半島に最大波高十メートル、東南海・南海は回り込みを含め茨城県南岸から鹿児島県まで最大五メートル以上が襲う。
本当に関連はないのか
三大都市圏はじめ人口と経済活動の集中する地域が多いだけに、現実に津波に被災すれば、今回に数倍する惨状も杞憂(きゆう)ではない。震源が駿河湾なら、静岡県東部沿岸は数分で到達する。
東海、東南海・南海地震は、フィリピン海プレートが陸側プレート下に沈み込む境界が震源で、今回の地震と異にする。東海地域のひずみ計は異常変動を観測せず、地震調査委員会は「関連は見当たらない」とみている。
データ上はそうだが、科学は未知の領域を絶えず持つものとするなら、懐疑の余地は残した方がいい。油断はできない。大方が軽々しい断定には納得しまい。
一部の研究者は、「いたずらに不安になる必要はないが、注意は必要だ。とくにプレート境界や駿河湾が震源の地震が多発を始めたら、厳重な警戒を要する」と呼び掛けている。
さしあたって東海、東南海・南海地震の被害想定を地震の規模、津波を中心に見直しを急ぎたい。とくに大都市圏に近い東京湾、伊勢湾、大阪湾、震源が近い駿河湾沿岸の津波被害を慎重に計算し直す必要がある。
次に今回の経験を教訓に、住民の避難意識を徹底的に高めねばならない。今回の被災地、大船渡市の海岸部でも昨年二月、チリ大地震で大津波警報が出た時に、住民で避難したのは15%弱にとどまっていたという。
揺れたらすぐ高所へ
ところによって地震発生後、数分で津波がくる静岡県は沿岸部住民に「揺れたらすぐ避難を」と呼び掛けている。
ハード面では、集落の多い海岸の防波堤や港湾の防潮扉など、いずれも事業費と時間がかかる。低地には、住民が緊急事態のときにすぐ駆け上がれる高所式のシェルターが考えられる。一九四四年十二月の東南海地震で、集落全体が壊滅的な被害を受けた三重県大紀町錦地区の津波避難タワーはその一例で、高さ二十二メートル、五百人を収容できる。
災害は待ってくれない。できることからすぐ始めよう。
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