HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Sun, 20 Mar 2011 02:08:45 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:日本へのエール 世界の眼差しを畏れよ:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

日本へのエール 世界の眼差しを畏れよ

2011年3月20日

 東日本大震災に注がれる世界の目は温かくも厳しい。エールを惜しまぬ半面、放射能汚染へ不安を募らす。その眼差(まなざ)しを畏れ、それに応えねばならない。

 地震発生を伝える海外報道は当初、事態の悲惨さのなかで被災者が見せる冷静な対応に驚きの目を向けるものが目立った。

◆危機が照らし出す日本

 米ウォールストリート・ジャーナル紙が「不屈の日本」と題して第一報を伝えたのが典型的だ。津波の惨状を伝えながら、「間違ってはならない。日本は今も偉大な産業力を有している」と社説で称(たた)えた。

 英インディペンデント紙も、「頑張れニッポン」と一面トップで扱い、日本へのエールを送った。欧米だけではなく中国、韓国などアジア諸国からも同様の温かいメッセージが次々送られた。

 品数が乏しい廃虚のスーパーでも、整然と列をなして買い物をする被災者。孤立した老人ホームに残り高齢者への支援を待つ若い介護士−。殺到する海外メディアが発信する被災地の映像に、付随しがちな暴動や略奪の混乱はほとんど見られない。

 未曽有の国難に遭いながら、自制のきいた対応を示す日本人の姿に海外メディアが注目したのは初めてではない。阪神大震災でも、被災者同士の支え合い、商店街仲間の助け合い、民間消防団の献身的な活動が目を引き、伝えられた。

 菅直人首相は地震発生時、「戦後最も厳しい危機」との認識を示した。文脈はやや異なるが、終戦直後、廃虚と化した日本に派遣された米特派員が打電した記事の中にもやはり予想された混乱とは裏腹に、日本人が見せた冷静さに対する驚きを隠しきれなかったものが見られた。

◆生死の際で保つ自制

 日本の置かれた地理上の条件は昔も今も変わらない。列島を貫く火山帯、不可避の地震、津波、火災。その自然条件の上に刻まれた歴史は、特有の無常感や諦観を育む土壌となり、日本人を日本人たらしめているものの深層にある。

 しかし、被災者が身をもって示している自制が、犠牲なしに保たれていると思うなら大きな誤りだろう。無言の怒りを、嗚咽(おえつ)を、悶(もだ)えを秘めた抑制であり、生死の際で保たれたものであることは見過ごされてはならない。

 海外からのエールは、あくまで懸命に被災の中で日々を凌(しの)ごうとしている一人一人の生活者に対してであって、対策が後手後手に回り、有効な危機管理戦略を打ち出せない政府に対してではない。むしろ政府に対する世界の眼(め)は日々厳しさを増している。

 「日本は民主国家だが、未(いま)だ有権者による統治が機能するに至っていない。民主党政権になってもほとんど変わっていない。崩壊に瀕(ひん)していた菅政権に、戦後最大の危機が指揮できるのか」。独有力紙のような辛辣(しんらつ)な指摘もある。

 技術先端国日本を襲った巨大地震が全世界に拡散する放射能汚染を引き起こすのではないか。米国のスリーマイル島原発事故をさらに超え、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故に匹敵する大惨事に広がるのか。世界が炉心溶融の推移を固唾(かたず)をのんで見守っている。

 米国ではヨウ化カリウム錠剤、中国ではヨウ素入り食塩の買い占めが起きた、との報道もあった。グローバル化のなか、まさに国際社会全体がわがこととして見詰めている。

 海外メディアの炉心溶融に関する報道は当初、むしろ抑制的だった。脱石油のエネルギー戦略から、原発推進へ大きく舵(かじ)を切る方針を示しているオバマ米政権や、慢性的エネルギー不足から原発促進に取り組む中国、インドなどが、最悪の事態が回避される方向に期待をかけていたのは当然だ。

 欧州では原発見直しを打ち出す動きが相次いでいる。シュレーダー前政権の脱原発政策を転換して原発継続の可能性を探っていたドイツでは、メルケル政権が当面の原発延長方針を凍結した。スイスは原発計画を一部凍結した。

 「3・11」の惨事を、冷戦を終結させた東欧革命、米中枢同時テロ、国際金融危機後の新たな国際秩序の流れに位置付ける大きな議論も出始めている。国際社会に与えた衝撃は計り知れない。

◆日本が秘めた底力

 渦中の日本にあって、今後を論ずるのはまだ早い。奪われた日常、喪(うしな)われた家族、消えた郷土の現実がある。国際社会には緊急事態の回避、被災者救済の一層の支援、協力に期待したい。

 日本は過去幾度も国難に直面したが、そのたびに力強く再生を果たしてきた。海外の眼に驚異と映る自制と冷静さ。この惨禍にあってもその底力が発揮されることを信じたい。いや、そうしなければならない。

 

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