水と食料が届かない。被災地の悲痛な叫びは届く。前例のない災害には、前例のない支援の輪が必要だ。全国が心一つに、安心と励ましを届けたい。
「水、食べ物、灯油、ガソリン…。生活の基本になるものが、何もかも手に入らない」
福島県いわき市(一部が屋内退避圏)の自宅から、放射性物質を逃れて宮城県名取市の実家に“疎開”してきた主婦(40)は言う。スーパーに三時間並んで、手に入るものはガムやビールだけ。食料はすぐに売り切れる。
「そして情報。役所では手が回らない。どこへ行けば何が手に入るのか。それが分からないのが不安をかき立てる。避難所や原発周辺で自宅待機の人はさぞや…」と電話口で泣いた。
◆「阪神」の教訓から
都市型の阪神大震災とは異なる状況がここにある。平時でさえ交通が不便な場所が多い。港は津波で壊滅し、道路がちぎれて陸送もままならない。
発生から六日目(十六日)、都市部なら、そろそろ食料や生活必需品などの支援物資が避難所などに行き渡り、後片付けなどのボランティアが威力を発揮し始めるころなのに、被災地にはまだ思うように、援助の手が届いていない。被災者のことを思うと、何かしたい、役立ちたい、そんな思いはよく分かる。しかし、まだ今は、やみくもに現地へ出かけたり、物を送ってみても、現場の負担や混乱を招くことが多いというのは、阪神が残した教訓だ。
今は自衛隊が働いている。被災地の役所が機能をなくしている以上、官民や市民団体の枠組みを超えた広域支援ネットワークを構築し、現地に拠点をつくった上で、人、物、そして情報が、必要な場所に必要なだけ流れるような体制づくりを急ぎたい。
◆暖房用の油と情報
愛知県では自治体と社会福祉協議会、NPOがボランティア支援連絡会を結成し、数十人単位で切れ目なく、長期間稼働できる人員を送り込み、炊き出しや足湯入浴を提供するボランティアバスの運行などを検討し始めた。
「食べ物の次にありがたいのは、皆さんの激励の言葉も含めた温かいもの、ほっとできるもの」と、被災経験者は言う。
支援は長期戦になる。ボランティアの出番はすぐに来る。
被災地は十七日、今週一番の冷え込みとなる。予想最低気温は、宮城県の南三陸町や石巻市で氷点下四度に下がり、二月中旬ごろの気候に逆戻りした。
「風が強く体感温度はさらに下がる」(仙台管区気象台)
避難所などで不自由な暮らしを強いられる人たちの健康不安も広がっている。暖房用の油や十分な衣類がない中寒さは怖い。
心配なのは高齢者や子どもたち、障害のある人などの生活弱者だ。大勢の人が肩を寄せ合って暮らしていると、インフルエンザなどの感染症が広がる懸念もある。寒さの中で水分が不足すると体温が奪われ、体を維持する機能が失われる低体温症の危険が増す。体を動かさずにいると、血栓ができて肺などの血管を詰まらせるエコノミークラス症候群になりやすい。ストレスや過労も募る。
避難所などでの長期生活がもたらす二次被害から、何としても被災者を守りたい。そのためには、新聞、テレビもきめ細かい生活情報の提供に重点を移したい。
避難している人は、五十万人前後にのぼるとみられている。そうした人たちが何よりほっとできるのは、快適な住まいである。
隣接県を中心に、公営住宅などを提供する動きが広がっている。今度の大震災は、県境を越えて広がる放射性物質の恐怖を伴った、かつてない異常事だ。原発近辺住民の避難指示が解除される見通しは、全く立っていない。現在無事な自治体は、入居の条件をできるだけ緩め、被災者に安心、安全を提供してもらいたい。
◆自治体の助け合い
想像を絶する大震災に直面し、広域にわたる震災の多重被害に備え、有事に備えて自治体間の連携を強めておくことの大切さを思い知らされた。大地震は、全国どこでも起こり得る。
一方、首都圏ではスーパーなどで食品や電池など多くの商品が品切れ状態になった。ガソリンスタンドでは給油待ちの車の長い列ができている。買いだめだという。
余震に加え、首都圏では計画停電も続いている。生活への不安から備蓄したい気持ちは分かる。だが、まず直接の被災地支援を優先し、命の灯を守らねばならない。「自制」も立派な共助であり、支援である。
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